堂嶌家&天城家捏造。燎の祖母の誕生日。鍵盤シンメ少し。
「ただいま」
「おかえり、燎。ちょうどいいところに……いや、この場合はよくないのか」
父は玄関まで出迎えに来たと思ったら顎に指をあてて横を向いて考え始めてしまった。
「さっき輝ちゃんのお祖母様が来てお菓子を頂いてね。誕生日にですって。ありがたいわねえ」
廊下から顔を出した祖母が事の次第を教えてくれた。
中学に入って吹奏楽部とジャズの二足のわらじを履くようになってから、それまでにあった天城家との家族ぐるみの付き合いは次第に希薄になっていった。高校が合併してからは繋がりが戻ったものの、お互い別々のクラスとチームで全く違う活動をしている。合同でやることがなければほとんど顔を合わせることもない。寂しさを覚えることもあるが、自分も平日は勉強と部活、休日はこうしてレッスンで一週間は常に埋まっている。連絡を取るにしても用事があるわけでもないし、魅力的な世間話が出来るわけでもない。それに輝はそういったものを俺に求めてはいないだろう。
しかし祖母同士の交流は今も続いているようで、時折買い物やランチに出かけているらしい。華やかで流行に敏感な輝の祖母になぜ古風な自分の祖母が付いていけているのか甚だ疑問なのだが、そこを突くのはきっと無粋だろう。個性が違う者同士だからこそ良い刺激になるのは孫も祖母も同じなのかもしれない。
「母さんは」
靴を脱ぎながら玄関のたたきを見下ろすが、そこに母の物と思しき靴はない。
「今連絡したよ。急いで帰ってくるって」
「まあ、現金だこと」
祖母は呆れたように肩を落として笑う。
輝に負けず劣らず甘い物に目がない母だ。輝の祖母が選んだ品とあらば母にとってはお墨付きのようなもの。予約していたケーキの受け取りがなければ早歩きで帰宅するのが目に見えている。主役は今日が誕生日の祖母なのだが。
「とりあえず準備しておきましょう。家族が早く揃うのはいいことよ」
着替えていらっしゃい、といつものように付け加えて祖母はエプロンを掛けた背を向ける。主賓であっても台所を預かる者のプライドのようなものがあるのだろう。父の申し出もやんわりと断っているに違いない。
着替えて荷物を片付けてダイニングに向かうと、めいめいの席には既にデザート皿とフォークが並んでいた。中央はケーキを置くために大きく開けられ、その半分を真っ黒な四角い箱が占拠している。高さは低く、表に小さな字でフランス語と思しき外国語が書かれている。
「飲み物はお母さんが帰ってきてから決めましょう。マカロンなんて滅多に頂かないから何が合うか分からないのよ」
「それもそうだな。餅は餅屋だ」
「餅屋……」
ことわざは合っているが、洋菓子派の母に餅というのは些かミスマッチで笑いが漏れてしまう。
「どうした燎。蛇の道は蛇の方が良かったか?」
「いや、父さんそれは……!」
母には蛇のようなイメージもないが、ピアノに限って言えば近からずも遠からずな気がして何とも言えない。
「ふふ」
祖母も俺と同じように口元に手を当てて笑いをこらえている。
「マカロンは最初母さんに選んでもらった方がいいんじゃないかな」
「そうしよう」
「そうねえ」
ガチャッと玄関の鍵を差す音に、俺達は皆して顔を見合わせた。
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