[24]続・私は看板猫である

フォロワーさんのツイートから設定をお借りした、[11]私は看板猫である の続き。単品でも読めます。
今日がコーヒーの日でおとといが招き猫の日だったと知り、耐えきれず続きを書きました。





 私は看板猫である。実は名前もある。けれど、それを知らない人はたくさんいる。私を名前で呼ぶのは、ご主人とその家族。アルバイトの人たち。常連――の中でも達者なお客。
 いかんせん、店も古ければご主人もなかなかの歳。常連のお客もそこそこの歳だ。予定があるのにうっかり長居してしまったり、お釣りをもらわずに帰ろうとしたり。忘れ物だってしょっちゅうだ。私に比べればお客の頭はずっと大きい。でも、何かを覚えておくための場所は、見た目よりもずいぶん小さいのかもしれない。猫の名前をねじこむ余裕はないのだろう。
 それでもいい。ここはただの喫茶店で、私はただの猫。ご主人に拾われた雑種だ。もともと名前なんてついていなかった。

 キッチンからガリガリと豆を挽く音が聞こえる。
 始まった。
 大きな音に、耳の後ろの毛がぞわっとする。急いで店の奥に走り、ピアノの鍵盤の下にもぐり込む。今日は天気がいい。ピアノの黒い板は窓から入ってきた日の光で温まっている。体をぺたりとくっつけると、ほかほかしてほんの少し気が紛れる。
 ざらざらざら。がりがりがりがり。
 今日はなかなか終わらない。耳をたたんでにらみつけても、ご主人はお構いなし。
 ニャアン。
 お湯をかける時はいい香りなのに、どうしてコーヒーはこんなに難しいのだろう。早く誰か来てコーヒーを注文してくれないかな、と顔をこする。

 すると、ちょうどドアが開いてベルが鳴った。
 カランカラン。
「じいちゃんただいまー! 今日練習していっていいかな。みんなもいるんだけど」
「おかえり。構わないよ」
「ありがとじいちゃん! よーし今日もやるぞー!」
「ありがとうございます」
「よろしくお願いします」
 張り切る翔琉くんに続いて、同じ制服の高校生たちがぞろぞろと入ってきた。いつもの人たちだ。あまりにしょっちゅうくるので、小さな頭の私でも覚えた。
 SwingCATSという集まり。スイングする猫、という意味らしい。私のことかな、と思ったけれど多分違う。私はスイングしない。もしかしたら尻尾が揺れてるのかもしれないけれど、多分翔琉くんはそこまでこっちを見てはいないだろう。SwingCATSはいつも真面目で、夢中なのだ。
「いい演奏聴かせてやるからな! 寝るなよ〜?」
 翔琉くんが近づいてきて私の背中を撫でる。他の人たちも何人かやってきて頭や背中に触っていった。大きな手、細い指、色々。

 お前は招き猫みたいだな、とご主人は私に目配せをした。
 私は看板猫である。招き猫ではない。でも、ご主人にそう言われると悪い気はしない。