オタク度500%の新とロラン。
自分が今めちゃくちゃ読みたいものを書いた結果、新は暴走し、ロランの神性がログアウトしました。
※解釈違い多発の可能性大
※作中のアニメタイトルは全部パロですが、元ネタはわからなくても大丈夫です
「なななな鳴海くーーーーん!!」
突如、部室の引き戸がものすごい勢いで全開になった。疾走した扉が枠に激突し、雷のような轟音を上げる。その衝撃でガラスも揺れ、甲高い音が響いた。
どうしよう、と僕は考えてしまう。これだけの音だ。校舎中に聞こえているかもしれない。下手したら先生がひとりふたり飛んでくる。そうなれば、またジャズ部かと言われるのは目に見えている。問題行動を起こしているつもりは全くないのに。
僕らはただジャズを楽しみ、その喜びをみんなと共有しようとしているだけだ。もしルールを破れば星屑旅団の評判は下がり、喜んでくれる人も減ってしまう。だから僕は定期的に生徒手帳を読み返している。すみずみまで。部活説明会のステージだって校則の範囲内だ。どうもこの学校には頭の固い教師が何人かいるらしい。多少派手な演出だったのは認めるけれど、意表をつかれて驚いたのを八つ当たりに変えるのはいただけない。
日本という国は大好きだ。でも、教育の現場はちょっとだけ窮屈に感じてしまう。ただそれはそれで型を破る楽しみができていいのかもしれない。もちろんルールの許す限りで。
そういえば、さっきの音。マンガの擬音で表現するなら何だろう。『バーン!!』だろうか。『ピシャーン!!』だろうか。僕は改めて少し考え込んだ。うん、きっとどちらも違う。『ガラガラッ! ズバアアアン!!』だ。引き戸が下敷きみたいにしなってる感じの絵だ。
しまったな。先生への言い訳を考えるつもりが。まあ、アドリブでどうにかなるだろう。このくらいじゃ僕は折れないし、理解のない人間に星屑旅団の名を汚させるつもりもない。僕は気持ちを切り替えて新を見つめた。
新は引き戸を開けたっきり、部室の入り口から一歩も動かない。ひょろりとした上半身を大きく上下させながら、ぜえ、はあ、と体で息をしているだけだ。
新がそこまで血相を変えるなんて、一体何があったのだろう。よほど困ったことか、慌てるほどいいことのどちらか……。もう少し待ってみようかな。いや、直接聞いてみたほうがいいかもしれない。そのほうが新は喜びそうだ。
「新、どうしたんだい。そんなに慌てて」
「はあ、はあ、な、なるみく、あのね、とんっっでもないことになったんだよ!! どうしよう!! もうだめかもしれない!! あーーーー!!」
うわずった叫び声が天井を突き破る。その瞬間、僕の頭の中にイメージが湧いた。深夜の暗い部屋。PCに向かって編集に没頭する新、その画面が突如ブルースクリーンに襲われ……。
「新……それは本当に辛かったね」
見当をつけて新に優しく声をかける。新は先週から編集の追い込みに入っていた。手伝おうかと声をかけても、神の手をわずらわせたくないと首を振るばかり。本人にもPCにも相当の負荷がかかっているのは簡単に想像できる。
そんな僕の予想通り、新は今にも泣きだしそうな顔で叫んだ。
「そうなんだよ鳴海くん! これからどうしたらいいと思う!? 『ジュジュの奇天烈な作戦第八部〜断崖と海〜』二期が十月からって!! 早すぎるよね!? 分割二クールでやるとは言ってたけど二クール目がいつからとは明かされてなかった! クオリティがすごいぶん時間がかかるんじゃないかってみんな言ってたよね? だから俺も原作を読み返しながらゆっくり待っとこうと思ってたのに、十月のアニメどうなってんの!? おかしいよね!? 『ノコギリウーマン』に『転生しても僕でした』に『スパイスファミリア』と『彼女のヒロインカレッジ』だけでも無理なのに、最近『アイドルエイト』と『強がりサイクリスト』も決まったし、そこにジュジュ八部だよ!? 時間が足りるわけないよ! 一日を二百四十時間にしてくれないと俺は死んじゃうよおおおお鳴海くううううん!!」
新はくしゃくしゃの髪を振り乱し、長い両腕をバタバタさせたかと思うと、断末魔のような金切り声を上げた。そしてその場に崩れ落ち、むせび泣き始めた。
新を助けないと。僕の頭の片隅で誰かが叫んでいる。なのに僕の体はピクリとも動かない。
新は今……何て?
ブルースクリーン……違う。
一日を二百四十時間に? いや、もっと前だ。
『ジュジュの奇天烈な作戦第八部〜断崖と海〜』二期が? 十月に? 制作は気でもふれたのか? それともテレビ局が無茶ぶりしたのか? 理解できない。断崖と海の二期をこのタイミングでねじ込むなんてどうかしている。大体、ジュジュの出版社は『スパイスファミリア』と『ノコギリウーマン』と同じ翔栄社じゃないか。一クールずらす手もあっただろうに。
いよいよ本気を出してきた、ということだろうか。あそこは昔からの大手。けれど紙媒体にこだわらず新規開拓も惜しまない。特に最近のマンガアプリの伸びは目覚ましい。予算も相当潤沢と見た。その気になれば力押しもできる、ということか。
となると当然クオリティが不安になる。相当外注に頼ったのだろうか。個人的にはクオリティが高ければ外注でも何でも構わない。けれど、一期が予想を遥かに上回る出来だっただけにどうしても懸念はしてしまう。
いや、問題はそこじゃない。これじゃ十月の僕のスケジュールが完全に圧殺されてしまうじゃないか。
僕がジュジュを一話見るごとにどれだけのエネルギーを奪われているのか公式は分かっていない。原作を何周読んでいたってアニメは別ものだ。生命を吹き込まれ、目に光を灯し、言葉を紡ぎ、躍動する。そんな彼らを見た瞬間の僕は、初見のように、もしくは初見以上の熱い喜びに全身の血液が爆発してしまうのだ。そして彼らが喋れば喋るほど僕は言葉をなくし、ただ彼らの一挙手一投足を目に焼きつけるだけの存在になる。いや、そうじゃない。もはや存在ですらない。僕はその場に存在していない。ある種、空気のようなものに形を変えているのだ。そして僕は彼らが想像を絶する苦境に立たされてもなお希望を捨てず知恵をめぐらし力を合わせ命を賭して、しかし賭しはしても生きることに強い憧れを抱きながら戦い続けるさまにどうしようもなく打ちのめされ、心を破壊され、超常的な感覚に支配され、自分が何者なのかを忘れてしまう。それがジュジュの全てであり、一端だ。そんな作品をあの十月に放り込むなんて誰が考えたのだろう。担当者を呼び出してくれないか。ここに。今すぐ。そして一月開始にしてくれと頼みたい。人の命を何だと思っているんだ。分かっていないなら分からせてやる。分かった上でやっているのだとしたら……僕は試されているのだろう。
なら話は簡単だ。見せてやろう。そして成し遂げよう。彼らが強大な敵を打ち倒し、山脈を攻略し、荒れ狂う海を越え、絶海の孤島へ乗り込んでみせたように。
心臓が脈打ち、胸の中と頭の中が一本の線で繋がる。砕ける波の音が満ちて、まぶたに一つの映像が流れ出す。
「世界一不吉な女」樹海ヶ原樹里(じゅかいがはらじゅり)と、「世界一縁起のいい男」寿文字寿限無(じゅうもんじじゅげむ)。呪いの血脈と襲い来る戦いから一歩も引かない彼らが、第八部一期最終話、自らの運命をも武器にして文字通り全てを賭けたときのことを。
――寿限無。最後に聞いて。私はずっと君が羨ましかった。君といると私はどこまでも不運で不吉でみじめな女だって思い知らされる!!
――そうだろうね。でも樹里。君は知らないだろうけど、一つ教えよう。良いことしか起こらないって実はすごく退屈なんだ。だから俺は今が最高に楽しい! こんなところで君に死なれたら困るよ! もっと俺に不吉をよこせ!!
気づけば僕の心臓はあの激闘を見届けたときのように暴れていた。胸に手を当て、深呼吸を繰り返す。彼らが命からがら敵を撃破した時のように。
「新。一日を二百四十時間にはできないけど、スケジュールを前倒しにすれば余裕は作れる。理想は今月末までに今やってる一曲と動画一本を仕上げて、ハロウィンとクリスマスのチャンネル動画も内容と構成まで決めてしまう。文化祭の曲決めはみんなに事情を話して一週間繰り上げ。十月からはなるべく練習一本に絞ろう」
タブレットのロックを解除し、旅団メンバー共有のスケジュールアプリを開く。
「鳴海くん……! 神だよ、本当に鳴海くんは神様だ……!」
新はふらふらと立ち上がり、僕の向かいの席に座ってスマホを取り出した。
「神は公式だけだよ。ところでジュジュ一話の最速配信日はいつかな」
「十月一日の深夜二十四時……えっと、日付変わって二日になる時だね」
「…………早いな。正気かい?」
「正気じゃないからこうなってるんだよ!!」
「それもそうだった。じゃあ相当詰めないとまずいね。新の進捗を教えてほしい。手付かずのところは僕が代わろう」
「鳴海くん……ありがとう!」
「こちらこそ。僕にも頑張らせてほしい。配信翌日を練習休みにするためにもね」
「……ねえ、それ初耳なんだけど?」
「あっ…………天城くん!?」
僕らが没頭しているあいだに、輝がいつの間にか来ていたようだ。輝は開けっぱなしだった部室の入口で腰に手を当て、冷ややかにこちらを見ている。
「ああ、ごめん輝。いま思いついたんだ」
輝は、ふうと息を吐き、お取り込み中ごめんなさいねと言って部室に入ってきた。
「いいわよそれくらい。今まで何度もあったことだし、今更驚かないわ」
「ありがとう。迷惑をかけるね」
「何よ急にしおらしくなっちゃって、らしくもない。スケジュールを前倒しにするんでしょ? ならしっかり働きなさい。紅茶くらいは入れてあげるから」
輝の優しさが、それこそ深夜に飲む紅茶のように温かく胸に広がる。ああ、僕はこんなにも恵まれている。
……今日の練習は輝に任せてもいいだろうか。
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