突如忘年会をしたいと言い出したロラン!しかし星屑のチャットはカオス極まる!果たして開催の夢は叶うのか!! おうち時間のらいん風画像が元ネタです。
「みんなお疲れ。突然だけど忘年会をやろうと思うんだ。今月の二十七日から二十九日の間でどうだろう」
僕はそんな文面を部活のチャットに送信した。
突然だけど。
それは僕ら星屑旅団のチャットでたびたび飛び出す言葉だ。
『突然だけど◯◯のアイテム持ってる人いませんか?』
『突然だけどクリスマスイベントで特攻キャラを出せる人募集!』
『突然だけど今度の◯◯コラボカフェに付き合ってくれる人いない?』
僕らの話題はいつだって突然だ。大半のメンバーが何かしらのオタクやファンで、常に並々ならぬ熱量を抱えている。だから自分の好きなものは誰かに強く勧めたくなるし、効率を上げるために力を借りたくなる。
そこに時間の制約は存在しない。誰もいない深夜であろうが雑談中のゴールデンタイムであろうが、僕らは好きな時に「突然だけど」と自分の話題を切り出すのだ。
最初は「話を遮って申し訳ないんだけど」というニュアンスも込められていたと思う。けれど、いつの間にかそんな遠慮はすっかり失われてしまった。僕らの「突然だけど」は免罪符を通り過ぎ、今や「いきなり無関係の話題を持ち出すことで笑いを取るスラング」と化してしまった。もはや話の腰は折るためにあると言ってもいいかもしれない。
幸いこういう場面での僕らの価値観は似ているから、「一つの話題が終わるまで待つべきだ」と声を荒らげるメンバーはいない。もちろんそれはモラルに欠けているという意味ではない。
チャットはあくまで軽いおしゃべり。
大切な話は個別でやりとりするか、部活中に時間を設ける。
そんな認識が全員に浸透している。だから僕らのチャットルームはいつだって、平和で騒がしい、愛すべき場所なのだ。
そんなこんなで僕は面白半分と興味本位半分で突然の忘年会を切り出した。リックが昨日運悪く出会ってしまったB級映画の話をしている真っ最中に。
忘年会は僕にとってまだ経験のない日本の重要イベントだ。父の体験談によればクリスマスパーティーとは違った雰囲気のようで、普段の立場や年齢を気にせずみんなで楽しむものらしい。僕は以前からそのスタイルが星屑旅団にぴったりだと思っていた。
とはいうものの、年末の僕らは忙しい。僕自身、開催の望みは薄いと予想している。
『すみません周回あるんで無理です』
早速通知が鳴ったと思ったらこの返事。奏斗からだ。思っていた通りの内容に、そうだよねと口元が勝手に緩む。奏斗が欠席するのは想定の範囲内。スタンプも句読点もないメッセージだけど、今も周回中だろうに素早く返信をよこすあたり、クールなようで根は律儀だ。
「構わないよ。集中してるときに悪かったね。他のみんなも忙しい時期だろうから無理はしないで欲しい」
僕が次のメッセージを送信し終えると、他のメンバーも次々に顔を見せ始めた。
『待ってくれロラン! ボクの映画の話がまだ終わってない!』
『本当に突然ねロラン。まあいいけど何するの?』
『なんかよくわかんねーけど面白そうだな! 親に聞いてみないと予定わかんないから後ででいいか?』
「もちろん」
僕は星のスタンプを押し、メモアプリに奏斗と蒼弥の予定を書き込んだ。
その間にもバックグラウンドでチャットの通知音が鳴り続けている。メモを終えてチャットルームに戻るとそれなりのログが溜まっていた。
『すいません! 全部バイト入ってるんで時間次第になりますけどいいですか? 弟たちの宿題はどうにかするんで! それから氷室っちは言い方気いつけや!』
『ここからが本当にひどかったんだよ! サメに襲われた主人公は性懲りもなくまたサーフィンに行くんだ。すると当然のようにサメがやってくる。主人公は怯える。あのときのサメかもしれない! なぜだ! あいつはあの日俺がモリで刺したはずなのに! ってね』
『何で危ないとこにわざわざ行くんだろ』
『フカヒレ食べたかったんちゃう?』
『草』
確かにそれは草、かもしれない。僕は必死で笑いをこらえた。これではろくに返信もできやしない。入力画面に書きかけの文章を残したまま、震える手でスマートフォンをデスクに置く。
『そういや俺フカヒレ食ったことないかも。うまいのか?』
『昔食べたことあるわよ』
『さすが天城先輩セレブ!』
『食べたことあるって言っても小さいカップにちょこっと入ってただけよ?』
『鳴海くん! 俺はいつでも空いてるから! 24時間365日!』
『中華の話してたら飲茶が食べたくなってきたわね』
飲茶か。
僕はフカヒレで少し疲れた腹筋をさすりながら背中をまっすぐに伸ばした。ティーカップを手に取る。そういえばもうずいぶん中国茶を飲んでいない気がする。中国茶と飲茶……忘年会にうまく組み込めるかもしれない。もし忘年会ができなかったら、次のスイーツ同好会で提案してみよう。
『あっ鳴海先輩、オレ二十九日なら多分大丈夫ですよ! 単発バイト入ってるんで夜からになっちゃいますけど』
『ロラン。そのことなんだけど、私二十八日しか空いてないのよ。ごめんなさい』
「気にしないでテル。急に誘ったのは僕の方だからね。元々の予定を優先させてほしい。煌真もありがとう」
僕はメモアプリを開き、みんなの予定をリストアップした。
奏斗……全てNG
蒼弥……後日
拓夢……時間次第
新……全てOK(と言ってるけど後でチェック)
煌真……二十九日夜OK
輝之進……二十八日OK
既に雲行きが怪しいな。
僕は苦笑いをしながらティーカップを傾けた。ここまでバラバラだとちょっとした笑い話にできそうだ。でも、僕以外誰一人としてこの事実を把握してはいないだろう。みんなリックの語るB級サメ映画に夢中だ。
『ところがよく見るとそのサメは妙に小さい。しかも自分を襲いもせずじっとこちらを見つめている。そう! 子どものサメなんだ!』
『え?』
『いやいやそこは刺されたサメが復讐に来るところだろ』
『子どものサメって人襲わないんですか?』
『まあ子どもやしなあ。親がガバーッて獲ってきたヤツをちょちょいっと食べる感じちゃう? 知らんけど』
『ここからが信じられない話なんだけど、何とその子どものサメはね! 人間の言葉を喋るんだ!』
『やば!』
『ちょっとリックさん話盛ってません?』
『超展開草』
『すげえな』
『その監督はそういうストーリー大好きみたいだね! バズったのもわかるよ! 気になって今調べたんだけど…ああでも俺サメ苦手だからほんとにちょっとだけなんだけど』
『全然話が読めないわね』
『盛ってないよ! ひどいなあ!』
これは時間がかかりそうだ。僕はお湯を沸かしにキッチンへ向かった。チャットが一段落ついたら早速サブスクで見てみよう。忘年会をどうするかはエンドロールの時に考えればいい。
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