最後の取材

SC初期メンカルテット。夏の成長記録をテーマに書きました。夏の風物詩インスタの後日談。モブ女視点(恋愛要素なし)。



 引き戸に手をかけた瞬間、ガラス窓がびりびりと震えた。
「何であんな写真載せたんだ!」
 私は反射的に手を引っ込め、拳を胸に押し当てる。
「それは……すまない」
「何もそんなに怒らなくたっていいだろ? 良い写真だったじゃん、ユーキの貴重なスマイル」
「それが嫌だって言ってるんだよ! それに、こういうのはせめて事前に一声かけるのがルールだろ」
「……申し開きのしようがない」
 一触即発の空気に、野次馬根性が押し負けそうになる。下校時間まであと一時間。暑さは和らぐ頃なのに、握った手にじっとりと汗が滲んできた。
 今まで新聞部部長としてそれなりの数のトラブルには遭ってきた。多少のいざこざの中になら入っていける自信はあった。
 高校生活最後の記事は夏の大会を終えたジャズ部へのインタビュー。小規模の音楽部だから比較的楽に終わるだろう。ジャズのことは全くわからないけれど、大人な音楽を聴きながらしんみりと取材出来るなんてエモいな、三年間頑張ってきて良かった。そんな緩みきった気持ちで現場に来た私が馬鹿だった。とんだ修羅場じゃないか。
 私は震える足を引きずり、一歩、また一歩と後ずさりした。
「しかも何だよ、夏の風物詩って。さも毎年俺が祭りに浮かれてるかのような……」
「は? 違ったのかよ」
「はあ!?」
 意識と無関係に肩が跳ねる。
「……こっちはな、大会が終わるまでずっと黙ってたんだぞ。お前みたいな単細胞と一緒にするな」
 それからは何の声もしなくなった。窓から中をこっそり伺うなんてとてもじゃないが出来ない。限界だった。私は身を翻し、階段へと走った。
「……すまない。最近ユウがよく笑うようになったな、と感じて嬉しかったんだ」
 くぐもった低い声が最後に聞こえた気がした。