(桜シリーズ)桜の下に埋まっているもの。SC1年トリオ・翔琉・優貴。軽度の暴力表現がありますがほのぼの系です。
「あっ、桜が咲いてる!」
僕は声を上げた。駆け寄って見上げてみると、か細い枝の先にぽつりぽつりと小さく淡い花が開いていた。まだ咲き始めたばかりのようで、他の枝を見回してもほとんどがつぼみばかり。
「もう春だな」
後ろを歩いていた九鬼くんが追い付いてきて、僕の隣に並んだ。さっきの僕と同じように花を見上げてあくびをする。体育の授業が終わって今から昼休みだから、きっと疲れて眠いのだろう。
「アオ! アキラ!」
悲鳴のような声に振り返る。星乃くんだ。僕たちからずっと離れた所に立っていて、ぶんぶんと必死に大きく手を振って呼んでいる。体育の授業は合同だから三人一緒デス、とさっきはあんなに喜んでたのに。
星乃くんは僕たちがなかなか戻らないことに痺れを切らしたのか、
「No!! ーー」
と大声で英語で何かを訴え、こちらに向かって駆け出した。
「星乃く、」
「星乃!?」
僕たちの言葉なんてまるで聞こえていないみたいだ。星乃くんは怒涛の勢いで英語を口走りながら右手で僕を、左手で九鬼くんの腕をがっちりと掴んでぐいぐいと引っ張り始める。
「いたっ! 星乃くん!」
「どうした星乃」
「サクラは! ダメデス!! 早く逃げてクダサイ!」
星乃くんはそこでやっと日本語に戻って僕たちに目を合わせてくれた。目はうるんでいて、冗談じゃないことはすぐに分かった。星乃くんは、はあはあと荒く息をして首を左右に振る。
「サクラの下にはmummyが!」
「ま、マミー!? …………ええっ!?」
今度は僕が星乃くんの腕を掴み直す番だった。頭の中が真っ白になって、うまく息が出来ない。周りを歩いているはずのクラスメイトの足音や声が急に遠ざかり、僕の心臓の音だけがどくりどくりと大きく強くなっていく。
星乃くんは今お母さんと一緒に住んでいるはず。じゃあ、桜の下にいるお母さんは…… そうか! 星乃くんの今のお母さんは新しいお母さんで、生みのお母さんはアメリカの桜の木の下に埋まっているんだ! 日本とアメリカじゃお墓は違うから、そんなことがあったっておかしくない。
「星乃くん……ごめんね……僕、星乃くんの気持ち全然考えてなくて……! そうだよね、アメリカのお母さんのこと思い出しちゃうよね……本当にごめん!」
「……オカアサン?」
「え?」
何度も頭を下げた僕に、星乃くんは口を真ん丸に開けた。九鬼くんも不思議そうに僕と星乃くんを交互に見ている。
「アオ、Ah……mummyはそのー……死んでマス」
「うん……」
星乃くんの説明に僕は頷く。そうだ、やっぱり星乃くんを産んだお母さんは亡くなっているんだ。
「ごめんね……」
「アオ、謝らないで」
「でも!」
星乃くんは僕の両肩にそっと両手を置いた。とても温かい手の平だった。喉の奥がぎゅうっと痛くなる。
「星乃くん!」
強く目を閉じて首を振っても、こらえきれなかった。僕は星乃くんにしがみついた。
「ごめんね! ごめんね!」
「アオ……そうじゃないんデス。ワタシは大丈夫。だから聞いてクダサイ。ワタシのオカアサンは」
「あ、智川先輩」
「え?」
僕は鼻をすすって星乃くんの肩越しに向こうを見た。智川さんが棒立ちで僕の方を見ている。その手から購買の白いレジ袋がぽろっと落ちて、地面でくしゃっと崩れた。隣にいた神条さんがペットボトルを手に何か話しかけている。離れているので内容まではわからない。
「どうしたんだろうな」
いつもなら僕たちを見つけるなり笑顔で声をかけてくれるのに。智川さんはまるで信じられないものでも見てしまったかのように全く動こうとしない。
神条さんは最初空いた手を腰に当てていたが、次第に雲行きが怪しくなっていった。身振り手振りで訴えた後、また手を腰に当てて今度はすごい形相で智川さんを睨み付ける。
すると智川さんは自分の両手で自分の頬を叩くなり、大きく口を開いた。
「ごめん俺が悪かっ、ぐあっ!!」
叫び声を上げた瞬間、神条さんの細い右脚が智川さんの膝裏に叩きつけられた。
バシン!!
ものすごい音が響いて、智川さんはレジ袋みたいに崩れ落ちた。
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