大和中心SC。大和だけが気付いた真実。
ため息というにはあまりにも大きすぎるそれに、全員が顔を上げまさかという表情で音の主を見た。
堂嶌くんが、休憩時間前の最後の合わせが終わるやいなや両手で顔を覆って深くうなだれてしまったのだ。皆の注目を浴びているとは全く気付きもしないようで、そのままぴくりとも動く気配がない。
いつもなら智川くんが休憩時間を知らせるタイミングだけれど、当の智川くんも口をまん丸に開けたままパチパチとまばたきをしているだけだ。付き合いの長い彼ですらそうなのだから、よほどのことなのだろう。
その背中に神条くんが冷ややかな視線を突き刺している。依吹くんは耐えきれなかったようで、すぐさま泣き出しそうな視線が智川くんと堂嶌くんをせわしなく往復しだした。その様子に、行田くんがドラムスティックを握った手を膝に置いて見かねた様子で口を開きかけた。
僕は意を決し遮った。
「智川くん、そろそろ休憩時間だと思うんですが」
「あ、ああ。そうだな。ごめんみんな! 休憩しよう!」
ぱちんとスイッチが入ったように、智川くんはやっと皆を見渡して何気ない風を装う。
はじめはそわそわしていた一年生三人も、智川くんが歩み寄って労いの言葉をかけると表情を緩めて譜面を見ながら話し始めた。行田くんは堂嶌くんに訝しげな目を向けてはいたものの、しばらくするとドラムスティックを置いて部室を出ていく。
一年生との話を終えて戻ってきた智川くんを神条くんが待ち構えていた。その両手はビシリと腰に据えられている。
「カケル。今度は何しでかした」
「しでかしたってひどくないか!? 冤罪だよ冤罪!」
智川くんの弁明に神条くんはまとう温度をさらに一段階下げた。絵に描いたようなギロリとした強い目付きに智川くんは両手をばたつかせる。
「そもそも何で俺!?」
「お前以外思い当たる節がない」
「うっ! そう言われると……まあ、そうなっちゃうよなあ……」
でもほんとに今回は俺なんにもしてないんたよ、宿題も予習もちゃんとやったし、忘れ物だってしてない、遅刻もなし……と智川くんは崩れ落ち、体育座りになった膝に向かって嘆き出した。
「こっちが聞きたいよ……ユーキ……」
「……お前じゃなかったら逆に困るんだけど」
神条くんは口を三角形にするなり、近くの壁にもたれて腕を組んでため息をついた。
「本当に、困ってしまいましたね……堂嶌くんらしくもない。一応僕が声を掛けてみましょう。心配ですし、このままじゃ練習になりませんからね」
僕は嘘と本音を半分ずつにして片手を腰に当てた。立てこもり犯を相手にする交渉人のようにゆっくりゆっくりと足を進める。
誰よりも冷静沈着な彼があんなにも動揺をあらわにする日が来るとは。しかしその原因は僕たちのどちらかが口にするまで決して誰も気付かないだろう。それはきっと、僕にとっても彼にとっても幸いなことだ。申し訳ないけれど僕は少しだけ嬉しかった。彼がそんな風に、隠しきれないほどの感情の波を持ち合わせていたことが。
さぞかし耐え難かったことだろう。無理もない。彼が待ち焦がれた昨日発売の新刊。長編推理小説の完結編があんな結末を迎えてしまったのだから。
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