私とじゃずおん

私自身の日常を小説っぽく書いたものです。じゃずおんのことを考える描写はありますが、あくまでリアルの話です。人様の生配信ネタ等を含みます。何でも許せる人向け。



 何となく空腹感を覚えて、うつ伏せのまま上半身だけを起こした。首を捻って置き時計を見やる。深夜二時を回ったところだ。
 スマートフォンでは美少女達が銃弾の嵐の中をオートバトルで突き進んでいる。周回数はそろそろ百二十周を越える頃だろうか。目当てのレアドロップはまだ出ない。このままだと、ワースト記録更新どころか別のステージのレアドロップ堀りが間に合わなくなる。その後には一周十時間と噂の全国ランキングが控えているというのに。残り日数を考えるとフレンドとのネタにする余裕すらなくなるかもしれない。
 頭の中に月間カレンダーを思い浮かべたが、そもそも今日が何日で何曜日だったかすら……いや、日付を跨いで今は木曜日だ。昨夜がじゃずよんだった。明日はラジオからのこはにじさんだ。もう少しだけ頑張らなくては。
 もう一台のスマートフォンで再生していたともがたりさんのアーカイブを一時停止する。両肘を支えにしないと起き上がれない。
撮影用を兼ねた木の盆からナルミの白いマグカップを指先で吊り下げて持ち上げる。中はとっくに空になって乾き切っている。
 下まぶたがどんよりと腫れぼったくなっている気がする。重力に逆らえず上まぶたがゆるゆると落ちてくるので、時々意識してパチリとまばたきをしなければならない。
 冷蔵庫の扉を身体ごと引き、最近月二で買うようになった牛乳パックを探る。薄目しか開けられないのでぼんやりとした色形が頼りだ。カップに少し注いで浄水器の水を足す。
食品庫の一番手前からインスタントコーヒーの袋を出し、入れっぱなしのスプーンで軽く山盛り一杯。この界隈に来る前にはあんなに飲んでいた紅茶は今や自担のシンメを想起させる特別なものになった。奥に仕舞い込んだ缶で眠っている茶葉の賞味期限は確か……まだだいぶあったはず。私は頭の中の確認すべきリストに書き込んだ。明日には忘れているだろうけれど。
 ココナッツサブレ発酵バター味は最後の一袋。いよいよ夜食が底を尽きる。明日公式ラジオが終わったら即買い物に行かなくては。これも同じリストに書き加える。
 カップをレンジの中央に置き、予め出力と時間を登録しておいた短縮ボタンを押す。低い駆動音に、アサルトライフルの軽やかな銃声がかき消された。
 私は腕を組んで右手をゆるく握り人差し指を顎に当てる。カフェオレが照明で黄色く
 ん?
 堂嶌燎がビンタに至った発端は殴り合い事件にあったのでは?
 輝之進シナリオで彼はそれまで暴力というものに抱いていた「支配のための衝動的あるいは戦略的行為」とは全く異なる「平和的解決のための建設的強硬手段」という未知の在り方に身をもって触れたことで暴力による解決が肯定されるケースもあるのだという事実を刷り込まれたことになり性格上意識的に採用することこそなかったもののあのインビジファーストというある種の極限状態によって追い詰められ瞬間的にその潜在記憶を引き出されてしまったのではないか。
 ピーッピーッ。
 クセになると感じた理由はあの時ともがたりさんでコメントを出した通りで恐らく問題は……いや、ある。
 それまで理屈と言葉という労力を尽くさなければならなかった問題解決の場面において、暴力とはたった一手で全てをひっくり返し相手の意識を揺り動かす画期的方法だ。彼はあの時驚いたはずだ。その衝撃に。咄嗟のこととはいえ暴力を振るってしまった自分に。それを痛快だと感じてしまったことに。自分自身に暴力を認める一面が存在していたという事実に。
 ……と思っていたが、改めて考え直してみると憶測の域を出ない。熱で朦朧としていたからの一言の方がよほど説得力があるだろう。
 しかし、丸ごとボツにするのは惜しい。ここまで思い浮かんだのなら一旦形にしておきたい。
 とりあえず書かなくては。早くしないと忘れる。スマホ……いや手書きだ。写真に撮りさえすればどうとでもなる。最悪メモのままキャス台本行きだ。
 そう考えれば意外とアナログの方が利便性が高いのか?いや、手は疲れるし小さな字で書かない限りはフリック入力の方が速い気がする。でも小春さんは手書きの方がいいと何かでおっしゃっていたような
 ピーッピーッ。
 急いで引き返す。
 足先は冷えて感覚はとうにない。二足あるスリッパは両方ともどこかに行ってしまった。台所にあるとばかり思っていたがここにはない。小説を思いついた拍子に玄関か脱衣所に忘れてしまったのかもしれないだめだ今はそれどころじゃないすぐにでもメモしないとこれを忘れたら担当として最悪だビンタ事件は殴り合い事件レベルの案件なんだぞどんなに突拍子のない着想でも的外れな憶測でも忘れるより二億倍マシだスリッパなんてどうだっていい。
 ピーッピーッ。
 泳ぐように宙を浮く足を家具に引っ掛けないように気をつけながら、不要な領収証の束に辿り着いた。ペンを取る。判読できる最小の字で走り書きしているのに――発散させる爽快感・感情の受け手に回りがち・手が出たのは衝動的・自分でも驚いている――まどろっこしくて仕方がない。
 やはり音声入力が最強なのか。以前iOSのを試した時は誤入力と誤変換が目立ってしまい却って時間がかかったけれども改善の余地はあるかもしれない。検証しないと。リストの一番下にそれも書き加える。
 そうだ、配信用のスマホ三脚を調べるのも忘れていた。日曜日に注文しよう。確かそろそろ大きめのキャッシュバックキャンペーンだったはず。
 ピーッピーッ。
 ピーッピーッ。