(23)タイトル未定 お題:秋のカフェスイーツ

太陽と月。駆り出されたカメラ同好会。緊張を隠せない被写体とは。※(21)芸術の秋の続きですが単品でも読めます。



「それにしても、まさかこんな大役を仰せつかる日が来るとはな……」
「そんなにかしこまらなくても大丈夫だって! 個人経営の店なんだし、撮り直しは効く。てかそもそも撮るの俺だし!」
 翔琉は燎の背中を軽く叩いて笑う。
「それはそうなんだが」
 翔琉の言うことはもっともだった。個人の趣味で喫茶店を経営しているオーナーが自分の孫にデザートの写真を一枚頼んだだけ。印刷は家庭用のプリンター。少々値段の張る用紙だが枚数はたっぷり用意されている。不安がることは何もない。
 が、メニューに載せる新作デザートの写真なのだ。いくらオーナーとその孫が失敗してもいいと言っていても、間接的に売上に関わる重要なものを適当に済ませるわけにはいかない。ちょっと手伝って欲しいんだけどと気楽に頼まれた臨時アシスタントでも全力を出すべきだ。しかも今回の被写体は時間との戦い。かなりシビアな撮影になることは素人の燎にも想像に難くない。翔琉が人手を求めたのもそういう理由なのだろう。
「よし、まずはロケハンだな! テーブル動かした方がいいかな……」
 翔琉は自分の一眼レフカメラを構え、部屋の中央のミニテーブルに向ける。
「ある程度の光量はいるだろう?」
「だなあ」
 燎もカバンを部屋の隅に置かせてもらい、必要な道具を取り出す。再び訪れた翔琉の祖父の自宅は、先日掃除の手伝いをしに来た時と変わりない。
「これを差したらすぐに手伝うよ」
「よろしく!」
 燎は細長い短冊状の厚紙の束を手にレコード棚の前に立った。二週間前、翔琉と悪戦苦闘の末に整理整頓した大量のレコード。苦心した甲斐あって見事にアルファベット順に並んだコレクションは見ていて惚れ惚れするものだ。
 燎はAと書かれた短冊を最上段の先頭に差す。背表紙を辿りながら続けてB、C。つい頭の中でコードを鳴らしてしまうがグッとこらえ、横から聞こえる試し撮りのシャッター音で気を紛らわす。
「もうちょい明るくしたいな……カーテン開けてみてもいいか?」
「ああ、構わない」
 レールをカーテンが走るサーッという音がドラムのブラシに聞こえてしまい、思わず咳払いでごまかしてしまった。
「……大丈夫かリョウ。ちょっとくらいならエアコン入れててもいいと思うけど」
「いや、問題ない。後々のためだ。部屋は冷やしておこう」
 燎は首を振り、残りを手早く済ませて翔琉の元に向かった。

 Zまでの見出しを差し終えた燎に翔琉は礼を言い、手元の液晶画面を見せた。
「こんな感じでどうかな? も少しこっちからこう撮った方がいい気もするんだけど……」
「ふむ……確かにどちらのパターンも有りだな。やってみよう」
 燎はノートを手に取り空白のページを開いて練習用の被写体に向ける。クリーム色のコースターの上にはデザートグラスが一つ。その中には軽く丸めたティッシュが二つ。
「おっ、いいねいいね! それっぽくなってきた!」
 燎が広げたノートがレフ板代わりになり、被写体が先ほどより幾らか明るくなる。今頃翔琉の手の中では、くしゃくしゃと寄ったティッシュの皺に光が当たって陰影がくっきりと写っていることだろう。
「うん、これだな!」
「ああ、明らかに良くなった」
「っし! じゃあいよいよ本番といきますか……! はー、緊張するなあ!」
 翔琉は三脚にカメラを固定する。軽い口調とは反対に手元の仕事は丁寧だ。
「撮り直しは効くと言ったのはトモだろう?」
「そうだったな!」
 今度こそ翔琉は笑い飛ばして立ち上がった。しかし、冷蔵庫の前に辿り着くとそわそわとした様子で手首をブラブラと振ったり両手で顔を押さえたりしている。燎の手にも震えが走り、開いたノートが揺れてパサリと微かに音を立てた。

 翔琉は離れた燎のところまで聞こえるくらい大きく息を吐き、冷凍室のドアに手を掛けた。
「それじゃあ、いくぞ! サツマイモアイス!!」