帰り道のSC初期メンカルテット。ちょっとした、でもすごく切実な事件。
「ん。うまいな」
もぐもぐと口を動かしながら光牙は呟いた。手の中では大きくかじり取られた肉まんの残りが白い湯気を上げている。断面からはゴロッとした大きめの具材がぎっしり詰まっているのが見える。まっすぐ持っていないとこぼれそうだ。
よくある肉まんに比べると肉の噛みごたえが違う。濃いめの味付けも好みだ。当たりを引いたな、と光牙は二口目をかぶりつく。
「……ん?」
しかし、隣を歩きながら同じように口を動かしている翔琉は浮かない顔だった。寒いしお腹が空いたからコンビニに寄ろうと言い出したのは翔琉だ。レジのショーケースを上から下までじっくり眺めて財布を開き、しばらく悩んでから特製スペシャル肉まん数量限定肉増量中を選んだのも翔琉。
「あのさ、これほんとに限定のやつかな」
「ちゃんと注文してたろ」
光牙は三口目を頬張る。生地はきめ細かく、かつしっかりと目が詰まっていて弾力がある。ほんのりとした甘みが具材の塩辛さとよく合う。
光牙が右側のレジで通常の肉まんを注文した時、同じタイミングで左のレジから翔琉がスペシャル肉まんを注文していたのが聞こえた。店内は空いていたから騒がしくて聞き間違うこともないだろう。
「それは間違いないと思うんだけど、何か思ったより小さいなーって」
「レシートを確認してみたらどうだ」
燎の提案で翔琉はレジ袋を漁りレシートを取り出すも、そこにはスペシャル肉まんと書かれていた。
「うーん……合ってるかあ。何か前食べたのと同じような気がするんだよなあ……ケースに入ってたのより小さく見えるし」
翔琉は手の中にある食べかけの肉まんを見ながら首をひねる。
「なあ光……牙、あっ、ちょっと待って! それ見せてくんない! あーっ、食べる前に!」
「……んだよ急に。落とすだろうが」
突然翔琉は大声を上げて光牙の手首を引っ掴み、手元をのぞき込む。それから自分の肉まんを近付け交互に睨んで見比べた。
「やっぱり! 間違ってる!!」
「マジかよ。どーりでうまいと思った」
「だって光牙の方が明らかに大きいだろ?」
光牙の肉まんは残り僅かだが、具の大きさはひと目見ただけでもわかるほどの差があった。燎もつられて検分する。
「確かに、光牙の方が良いもののように見える」
「日頃の行いが悪いんじゃないの」
優貴は一瞥もくれず前を見たまま、目と口だけを鋭くし淡々と歩いている。
「ひでー! くう〜……俺のスペシャル肉まんが……」
「二人の肉まんを取り出していたのが別のアルバイトだったからな。その店員が間違って渡してしまったんだろう」
「やっぱそうだよなあ……はあ、自分もバイトしてるから気持ちはわかるよ。わかるけど……! 責められないのが余計にこう……!あー!」
翔琉はやりきれない叫びを上げた。その手首の下でレジ袋がクシャクシャと震える。光牙は自分の袋から紙ナプキンを取り出してゴシゴシと手と口を拭いてパシンと手を合わせた。
「ごちそーさんでした。まあ、お前には悪いことしちゃったけどよ。食べちまったもんは返品できねーし……どうすっかな」
「光牙がトモに差額を払うか、また改めて二人で注文して品物を取り替えるか……が無難だろうな」
「……よし! じゃあまた明日買おう! 光牙、頼むな。たっぷり練習して、しっかりお腹を空かせるぞー!」
翔琉は笑顔を取り戻し、大きく頷いて肉まんをかじった。
「おう。このままじゃ俺も落ち着かねえ」
「……その数量限定ってやつが終わってないといいけど」
「不吉なこと言うなよユーキ!!」
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