優貴にとってあまりにも過酷な冬の朝。母親ほか色々と捏造。
「今日は各地で初雪が観測されるでしょう。積雪はないとの見込みですが、この冬一番の冷え込みとなります。お出かけの際は寒さ対策をしっかりして体調にお気をつけ下さい」
ついにこの季節がやってきてしまった。悪夢の梅雨が終わり、地獄の夏が終わり、やっと秋が来たと思ったらこれだ。四季というものは秋だけでいい。春もにっくき花粉が我が物顔で邪悪な粉をまき散らすから論外だ。アナウンサーのにこやかな笑顔に優貴は奥歯を噛みしめ、マグカップのカフェオレを親の仇のように睨みつける。いっそ親の仇の方が可愛らしいかもしれない。
日用品を収めている戸棚を開け、使い捨てカイロをいつもより二枚余分に取って玄関に向かいバッグへ。その脇にいつもの支度が整っていることを確認。念のため腹と背中に手を当てておく。まだ冷たく硬いままだが確かにカイロは貼ってあった。
ピーコートの袖に腕を通し、ボタンを手早く留めて襟をまっすぐに整える。分厚いマフラーを半分に畳んで首にかけ、輪になった部分に反対の端を通して引き締め首に隙間ができないようにきっちり埋める。ニット素材で覆われた耳当てをはめながら洗面所に向かい、髪が崩れないよう鏡で見ながらバックアームの位置を調節。その足でキッチンに顔を出す。
「行ってきます」
「あら、もうそんな時間?」
優貴が玄関に戻り靴を履いている間に、母は手を拭き終え見送りに来た。
「あんまり降らないといいわね」
「そうだね」
優貴はローファーに目を落としながら淡々と答え、ポケットから引き抜いた手袋を両手にはめる。壁に立てかけておいたウッドベースケースの肩ストラップに腕を入れて背負うと、いつものことながら両肩が地面に引っ張られるようだった。母から教科書の詰まったバッグを受け取る。
「ありがとう」
「気を付けてね。行ってらっしゃい」
「はい」
金属製のドアノブは手袋越しでも分かるほど冷え切っている。誰かに押し返されているかのように重い。体重をかけて押し開けると、ようやくできた隙間からヒューッと風の鳴る音が聞こえて氷点下の突風が殺到する。顔面に吹き付ける冬の嵐に優貴が顔を歪めて抵抗していると、ドアを支えにやって来た母が寒さに小さな悲鳴を上げた。
「今日くらい学校休みでもいいでしょうに」
「……そうも言ってられない」
「そうねえ」
困ったように笑う母を残し、優貴は極寒の通学路へ踏み出した。
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