(29)ゲーマーの新年は戦争で始まる お題:お正月

スラング・専門用語多発。作中のゲームは捏造です。



 コトン、とお盆を机に置いて椅子を引く。去年買ったコラボマグはまだまだ現役。そう長くはもたないだろうと覚悟していたタイトルロゴの塗装は、食洗器の洗礼を数回受けても剥げる気配がない。今夜は長丁場になるかもしれない。勝てば三分、負ければ一時間。そこに育成時間を加えると最低でも……と置時計を見る。
 零時十分。
 背もたれに掛けていた袖付きの毛布を羽織り腕を通す。エアコンを入れているのに、部屋に吹き付ける風は冷風みたいだった。机に両肘をつき、頭を抱えるように下を向く。くしゃくしゃと髪をかき分ける指先はこれ以上ないくらい冷え切っている。生ぬるい地肌では何の足しにもならない。
 それでも腑抜けは許されない。目を閉じる。頭の中の色を塗り替えるイメージで大きく息を吸い、細く長く吐く。はじめは黒っぽくもやもやしていた景色が呼吸に合わせて少しずつ漂白されていく。何度か繰り返していくうちに頭にあったものは全部真っ白になり、胸のざわつきもだいぶ治まった。ふうっ、と最後に鋭く息を吐き切るころには肩の力もすっかり抜けた。コラボマグで手を温めながらココアをちびちびとすする。時間と機能を考えれば保温マグ一択。このあと極寒の洗面所に下りていって歯を磨くことを考えればお茶にすべき。当然だ。けれど、やっぱりこういう時はこれじゃないと落ち着かない。あらゆる手を尽くさないと自分は必ず後悔する。例え邪教と呼ばれようが関係ない。勝った奴が勝ち。その事実は絶対なのだ。
 零時二十分。
 そろそろログインゲーは落ち着いただろうか。時刻教に入信はしていないが、あまりモタモタしているのも性に合わない。覚悟を決めた時が引き時。
 クリーナーで液晶画面をピカピカに磨く。本体もついでに隅々まで拭き取る。指紋もホコリもないディスプレイは気持ちがいい。勝ちの予感しかしない。手を合わせてからそっとスマホを取り、ロックを解除する。バージョンアップは日付が変わる前に済ませてある。例年通りデータダウンロードは大したサイズではなく、ロードアイコンの木の葉がくるくると五周くらいした辺りでスムーズにゲームは起動できた。タイトルをタップ。自動ポップアップのお知らせにざっと目を通す。さすがお正月の更新といった量だが、ほとんどは数日前の公式配信と先ほどのSNSに書かれていた内容と同じ。軽微なバグ修正や更新も含めて後でまとめて読み返すことにし、サッと指を走らせ画面を切り替える。

 ニューイヤーピックアップ、SSR深淵の守護女神。
 眩しい金色のロゴの隣で、飾り気のない黒いローブに身を包んだ女キャラが無表情で佇んでいる。顔の半分くらいがフードに隠れており、とてもSSRとは思えない地味な衣装。手にした禍々しい装飾の大鎌がゴテゴテしているのが対照的で、正直浮いている。どう見ても覚醒で派手な着替えが用意されているパターンだ。
 期待しかない。
 再びざわつき始めた心臓を深呼吸で撫でつける。もう一度ココアを一口。それから指をさすり手をぎゅっと握る。
 よし。
 大丈夫。イメージは出来ている。最初の十連で絶対に出る。確定演出から一発で出る。今夜中に最大強化までいく。サポにあの守護女神を出してコメ欄にも「レベルマスキルマ覚醒済み」と書く。
 よし。
 十連のボタンをタップする。ローディングがいつもより長い。出たかもしれない。これは出た。絶対に出た。やばい。新年早々大勝利。素材と資金は足りるはず。新規素材を要求されなければ多分余裕。多分。いやそれはフラグだ。考えるな。……残った石で何しようかな。
 ずんぐりした壺に宝石が次々投げ込まれ、その上で魔法の杖がくるくると回る。茶色いカードが一枚ずつ吐き出されていく。一枚、二枚、三枚、四枚目に入った瞬間に映像が暗転し壺にスポットライトが当たる。壺が内側から輝きカタカタと震えだし、やがて画面が虹色の光の渦に包まれた。
 ――確定演出!!
 拳を強く握る。息をのんで唇を噛む。
 ホワイトアウトした画面がすうっと色を取り戻していく。映し出されたのは女性の足元。真っ黒のブーツに同じ色の長いスカート。段々画面は上にスクロールしていき、膝のあたり棒らしきものの先端が見え、
「……!?」
 目を見開いた。せり上がった画面に現れたのは、