ぱしんと手を合わせて会釈をする光牙に、翔琉の祖父はこちらこそきれいに食べてくれてありがとうと頷く。白い円形の皿には細いカレーの線が走るのみで、口に運べるものは米粒一つすら残っていない。今日もいい食いっぷりだなあ、と皿を下げにやってきた翔琉は朗らかに笑う。
「そういやさ、光牙ってちょいちょい金曜にカレー食べてる気がするんだけど、何か理由でもあんの?」
「理由? 特に考えたこともねーけど」
「ふーん。てっきり曜日が覚えられないからかと思った」
優貴が冷ややかに言い放つ。燎にとっては不意打ちだったらしく、顔を背けて肩を震わせてしまった。優貴はいたってマイペースで細い指を揃え、ごちそうさまですと言い残しステージに向かってしまう。
「そっか、自衛隊は金曜がカレーだもんなあ!」
優貴から受け取ったカップを持ち上げ翔琉は笑い声を上げた。言いたい放題言いやがって、と光牙は顔をしかめて優貴に続く。
「で、リョウはいつまで笑ってんだよ」
「……っ、ああ、悪い」
燎はグラスの水を飲み、肩で一度大きく息をした。
「リョウの笑いのツボってほんと謎だよなあ」
「トモも大概だと思うんだが。この間だってずっと一人で笑ってただろう」
「あれはさあ、仕方ないんだって! ていうか何でリョウもそう思わないんだよ。笑うなっていう方が無理だと思うんだけど、ふふ、はっははは!」
翔琉は一歩歩み寄って力説するも、次第に表情が怪しくなり、たちまち思い出し笑いに変わってしまった。空のカップがカチャカチャと騒がしく音を立て始める。翔琉はたまらず腰を折りながらカップをカウンターに置いた。
「全く、人のことが言えたものじゃないな」
ベースとドラムの音出しが始まった。燎は翔琉の祖父に礼を言って席を立つ。
「せっかくだからいっそここでもカレーの日をやってもいいかもしれないな。店休日の前日にでも」
「え? カレーしか出さないってこと!?」
皿を拭きながらのんびりと言う祖父に、翔琉は息を切らしながら勢いよく顔を上げた。
「さすがにそうはいかないが。海上自衛隊が金曜日にカレーを食べる理由は、曜日を思い出す以外にもあるんだよ。翔琉は知ってたか?」
首を振る翔琉に祖父はにやりと笑ってみせた。
「休みの前の日に早くキッチンの仕事を終わらせるためだ」
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