帰路につくSC初期メンカルテット。冷たいような、温かいような。(26)中身の入れ替わり の続きですが単品でも読めます。
「はー、よかったー! 買えなかったらどうしようかと思った」
翔琉は空を見上げて眩しそうに笑った。本当に眩しいのは、背後でたったいま自動ドアが閉まったコンビニの店内。翔琉の目線の先にある空は、とっくに日が落ちきっていて真夜中のように暗い。
「肉まん一つで大げさだな」
LEDの白い光が優貴の頬を半分照らす。赤くなり始めた鼻をチェックのマフラーで隠し、優貴は先を行く。ローファーのかかとがカツカツと鳴るのに混じって、ペットボトルのオレンジ色の蓋がカチカチと音を立てる。
「ユーキ、たかが肉まん一つ、されど肉まん一つだぞ?」
翔琉の派手なスニーカーが後を追う。はじめはくっきりと形を描いていた影はだんだんと細く長く伸びながら輪郭を失い、やがて住宅街の窓から投げかけられる遠い明かりとまばらな街灯に、ゆっくりと明滅を繰り返すようになった。車通りの少ない歩道で、二つのレジ袋と四人分の足音だけが存在感をもっていた。
光牙は小ぶりな肉まんを取り出し、紙包みをめくって頬張る。
「これではっきりしたな。食べ物を粗末にする奴にろくなのはいねえ」
「そこまでは言ってないだろ」
チェックのマフラーの中から優貴は鈍い怒声を上げ、せわしなくペットボトルの蓋を回して閉めた。
「大体、今日カケルがずっと肉まんの話をしてたのが悪い。おかげで全っ然集中できなかった。休憩中のスキャットまで歌詞が肉まんって、どんだけだよ」
「え!?」
白い息と共に吐き捨てた優貴に、翔琉は大ぶりな肉まんにかぶりつこうとした手を止めた。優貴はまぶたを半分まで落とす。
「……まさかの無自覚」
「よっぽど楽しみだったんだな。まあ、あんなことがあったわけだから、気持ちは分からなくもないが」
燎も缶コーヒーを口元から離し、苦笑いを浮かべる。翔琉は渡りに船とばかりに前のめりになった。乗船しそうな勢いだ。はらりとめくれた薄い紙包みから、昨日店員のミスで食べ損ねた特製スペシャル肉まん数量限定肉増量中が白く丸い頭をのぞかせる。
「だろー!?」
「……だが。トモ、さすがに肉まんスキャットは俺もどうかと思う」
「何でだよ!」
「何でもいいからとにかく食え。冷めっぞ」
翔琉は船頭に抗議し、肉まんと同じ白い煙を上げた。そこへ、後ろを歩いていた光牙が口を開く。既に包みは折り畳まれて空のレジ袋の中だ。そうだったそうだった、と翔琉は念願の品にぱくつく。
「うん、うん……あーやっぱ違う! こっちの方が好きだ!」
すれ違った街灯が手元に光を落とした。ごろごろとした肉たっぷりの具が照らされ、一瞬ツヤを放つ。光牙も頷いて両手をポケットに突っ込んだ。
「でかい方がうまいよな」
「ああ! 肉の食感がいいよな。味もしっかりしててさ。食べてるーって感じするんだよ」
翔琉は続けて肉まんを口に運び、そのたびにうんうんと頷く。
「寒いのは嫌だけど、これなくなるのは寂しいな……」
手の中で小さくなった肉まんから顔を上げ、翔琉は星のない夜空に呟いた。その背中に、特製はそれでラストだってさっき店員が……と告げようとした優貴を燎が慌てて制していたのを、翔琉は知らない。
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