SC2年生。ファミレス編の続きですが単品でも読めます。お疲れ神条氏の胃は果たして持ち直すのか……!
「あっ、ずるいぞユーキ! そこ俺が気に入ってた席なのに!」
翔琉の脇をすり抜け、優貴はテーブルとソファ席の間に体を滑り込ませた。テスト最終日のカバンは軽く、つるつるした薄緑色の座面をソリのように滑る。優貴は引き寄せたカバンを左脇の壁際にぴったりとつけ、後ろ髪に軽く手櫛を通すとメニューブックを手に取った。
「気に入ってようが何だろうが、公共のものならお前専用じゃない」
翔琉に文句を言われる筋合いはない。連日の勉強会で頭脳労働に肉体労働に――具体的には翔琉の勉強を教えながら自分の勉強を進め、かつ翔琉が気を抜こうものなら叱咤し、時にドリンクバーへのむやみな散歩を体を張って阻む仕事――と疲労困憊なのだ。今回のテストはさほど苦戦せずに解けたので、もしかしたら努力の甲斐があったのかもしれない。けれど、優貴は答案が返ってきても結果は絶対に言うまいと既に固く決めていた。本当に成績にプラスになるとしても、やはり騒がしい場所で騒がしいメンバーと顔を突き合わせて勉強をするのは優貴の性に合わない。燎と大和ならまだましなのだが。
当の大和は、優貴の隣でメニューを眺めながら、使い終わったお手拭きを丁寧に折り畳んでいる。今日はテスト最終日。当然大和からひそひそ話をされることもなかった。何となく落ち着かないのは気のせいだと思うことにしよう。きっと疲れ切っているのだ。向かいには燎もいる。何かあったらこの二人に任せて自分は温かいカプチーノでも飲んでいればいい。優貴はビーフシチューの洋食セットとティラミスのジェラート添えに目をつけ、メニューを右隣へ少し滑らせた。左側の大きな窓から差す日差しがぽかぽかと心地よい。翔琉がここに座りたがるのも納得だ。優貴は左手で頬杖をつき、軽く息を吐いて外を眺めた。
「智川くん、よっぽどここが気に入ったんですね」
大和は優貴に小さく礼を言ってメニューを受け取り、和定食のページを開いた。
「いやー、思ってた以上に美味しくて! また食べたくなっちゃったんだよ。今日まで部活休みだし、ルバートも店休日だし。ちょうどいいかなあ~って」
「頭使ったら腹減るしな。がっつり食わねえと」
大和の正面で、翔琉と光牙がグリルメニューとステーキメニューを交互にめくっている。
「コウは頭使ってなくても腹減ってるだろ。肉食単細胞」
「あ? お前が小食すぎんだよ。ウサギの方がもうちょっと食うんじゃねえの。バリバリ食ってジャンジャン音出してもらわねえと困んだよ」
「はあ!?」
「今日は食事が終わったら解散なんだろう? なら小食でも問題ないんじゃないのか」
「……いや、リョウ。それはそういう問題じゃないと思うんだけど……」
仲裁に入った燎に、翔琉が複雑な表情で突っ込む。どうにもならない空気に、大和も苦笑いを浮かべる始末だ。優貴は深いため息と共に呼び出しボタンを押した。
「ちょっ、ユーキ! 俺まだオーダー決まってないんだけど!」
「知ってる」
「わざと!? まあそういうことだろうとは思ったけど! 店員さんの気持ち考えような!?」
「そこはまあ……正直申し訳ないと思うけど。大体カケルのせいだから」
「はあ~! 今日も厳しいなあ神条ユーキくんは!」
「トモ、俺もまだ決まってないからその時にまとめてオーダーすればいい。というか、まだメニューを見せてもらってないんだが……」
「……え?」
「智川くんと行田くんがすぐに見てましたしね。これを使って下さい。僕も注文は決まりましたから」
「ああ、ありがとう」
「お待たせ致しました。ご注文をお伺い致します」
「ビーフシチューのセットをパンでお願いします」
「和風ハンバーグセットをライスで一つお願いします」
「ミックスグリルプレートをセットで。ライスを大盛りでお願いします」
「コウも大和も決まってたのかよ! あ~、すみません。とりあえず以上でお願いします」
翔琉は三人の注文を締め、メニューを最初のページに戻して燎の方にずらして見せた。仕事がなくても騒がしいことに変わりない。優貴は大和に続いて席を立ち、ドリンクバーのカップ置き場へ向かった。
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