(40)めくったカードは お題:ゲーム

じゃずよんでのリズムゲー対決の後、リベンジに燃える奏斗がいたらいいな……と思って書きました。



「これはこれは……参りましたね」
 全然参ってねえだろうが!! と、俺はありったけの怨念を込めて心の中で叫んだ。手に残ったダイヤの2を睨みつける。これも心の中で。間違っても顔にだけは出しちゃいけない。適当な奴らにならいい。でも、この人にはダメだ。ちょっとでも弱みを見せたら付け込まれる。誰だよ、運ゲーなら勝てるって言った奴は。

 ……俺だった。
 抱えていいなら頭を抱えたい。でもそんなことをしてしまえば相手の思う壺だ。ゲームが始まってからというもの、この人のニコニコ笑顔は一ミリだって崩れちゃいない。ゲーム終盤にして三度目のジョーカーを手にしても、ちょっと意外そうに「おや」と眉を動かしただけだ。何が「おや」だ。取って付けたようなセリフを。
 ババ抜きは運ゲーであって「完全な運ゲー」ではない。どのカードがジョーカーか全く分からない、という意味では運ゲーだ。でも、相手がジョーカーに手を出すよう、手札の位置や言葉である程度誘導したりはできる。そう考えると、今回のようにジョーカーの持ち主が明確なサシの勝負なら、むしろ心理戦になりやすい。
 やってしまったかもしれない。からかわれるのを承知で煌真と拓夢に相談して、案の定からかわれたのに、これじゃ相談した意味がない。いや、相談した意味は多分あった……と思いたい。あいつらの引き出しには、基本ソロプレイの俺には思いつかないようなゲームがある。クリスマスの定番のパーティー系タイトルや、子どもの頃に遊んで以来のアナログゲー。トランプを思いついたのはあいつらのおかげだ。そして唯一勝ち筋がハッキリ見える、ババ抜きを閃いたのも。
 こうするしかなかった。例え心理戦という敵の独壇場であったとしても、これが最適にして最善。俺は自分に言い聞かせた。

 作戦は単純だった。
 とにかく無言と無表情をキープ。深く考えず、相手の顔を見ない。機械のように、無作為にカードを選んでいく。相手に手札を並び替える隙を与えないようテンポ良く。そうすることで、自分の手元にジョーカーが来ても意識せずカードを捨て続けられると踏んだのだ。
 結果、うまくいった。あっという間に手札は減り、これが最後の一手。
 自分の手元にはダイヤの2が一枚。相手の手には二枚のカード。そのうち片方が2で、もう片方がジョーカーだ。ここで俺が相手から2を引けたら俺の勝ち。

 俺は一旦カードを机に伏せた。深呼吸して肩を一度回し、座り直す。チラリと時計を見上げる。まだほんの数分しか経っていない。なのに、もう喉が渇き始めていた。あと少しだ。この勝負に勝ったら、俺はアップルサイダーを奢ってもら……何でフラグを立てにいくんだ俺は! しかも、よりによってこのタイミングで! バカか!
「……武宮さん」
「いつでもどうぞ」
 俺の目の前にカードが二枚並んだ。地味に指が長いな。文化系っぽく見えるけど結構がっしりしてる。初心者の割にトロンボーンは安定した音が出てて結構……じゃなかった。はいはい初心者詐欺乙。
「じゃあ、決めさせてもらいます」
 俺は顔を上げないようにして、机の木目を視線で辿り、右のカードをつまんだ。わかっちゃいたけど、今までのカードの中で一番重い気がする。でも、ここで崩れちゃだめだ。音を殺して静かに細く長く息を吐き出しながら、俺はそろそろとカードを引っぱり、ゆっくりとカードをめくった。