3年生初日の2-Dトリオ。チーム色男のピリッと感あり。ベルリンは一旦置いときました。
新しい教室の扉は、前も後ろも開け放たれていた。前側の入り口を見上げて、クラス名のプレートを再度確認する。3-D。間違いはない。
「おはようございます」
既に席の半分ほどが埋まっている。静かに自分の席についている者もいれば、仲のいい友達同士で集まって盛り上がっている者もいる。新学年初日特有の、そわそわとした緊張感はない。
国公立理系コースは学年に一クラスのみ。進路変更をしない限り、二年生から三年生へは持ち上がりだ。会釈をして顔を上げると、気付いたクラスメイトがぱらぱらと返事をしてきた。ざっと見渡す限り全員馴染みの顔ぶれだ。その中央に、燎とロランの姿があった。
「大和、おはよう」
「おはよう武宮くん。君の席はこっちだよ。予想済みだと思うけど」
二人は前後の席に並んで座っていた。前方の黒板側が燎だ。ロランは、挨拶のために挙げた手で燎の一つ前の空席を示した。
「ええ、予想はしてました」
黒板に貼られたA4の席順表を見るまでもない。お決まりの出席番号順だ。
また鳴海くんの近くになるのはいささか癪ですが、の一言は口にしないでおく。さすがに初日からそんなことを言い放ってしまえば、間に挟まれる燎の心労が増してしまうだろう。今ごろ部活紹介の戦略に頭を悩ませているはずだ。彼の負担を増やすのは得策ではない。それ以前に、純粋な仲間としても本意ではない。
大和は素直に席についた。2-Dの教室とはほとんど同じ造りのはずなのに、どことなく違和感がある。机と椅子も同じものだが、何となく借り物のような気がする。数日も経たないうちに、そんな感覚は忘れ去ってしまうのだろうけれど。と、大和は荷物を机の脇のフックに掛け、天板の隅の大きな傷に触れた。
やることはこれまでと変わらない。同じ時間に登校し、授業を受け、部活をして帰る。違いがあるのは、目に見える確実なリミットがあるかないかだけだ。
部活の引退まであと数ヶ月。それまでに、やれることを全てやりきる。自分のことも後輩のことも。新入生が入部したら、彼らのことも。初心者の自分には、継いでもらうほどのものはないだろう。けれど焦りや名残惜しさは拭えない。それほどまでに、自分は部活というものに入れ込んでしまっていたのかもしれない。
新しい担任がやってきて挨拶を始めたが、これもお決まりの内容だった。最高学年として、受験生として。
「今まで以上に時間は有限です。悔いのないように、一日を大切にしましょう」
判で押したようなありふれた言葉だった。しかし限りなく正論だった。
大和は机の傷から指を離した。
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