(44)続・作戦会議 お題:憂鬱

ワビサビ。今までの話をいくつか拾ってますが単品でも読めます。




「はあ……もうそんな時期になるとは」
 燎は、深まる秋よりさらに深いため息と共に腰を下ろした。座卓に手をついて体を屈める様子は、もはや秋を通り越して冬の寒さを憂うほどだ。彼があの舞台で倒れてから一週間と少し。もうすっかり回復したらしいが、一応病み上がりではある。体は万全でも、精神はまだそうではない――というのが大和の見立てだ。今回、必要に駆られたとはいえそんな燎を個人的に呼んでしまったことを、大和は今一度後悔した。けれども、それを口にしたところで燎は大丈夫だの一点張りだろう。もしくは、謝られるかだ。どちらにしても、話が進まないばかりか燎に気を遣わせることになってしまう。それは大和にとって望むものではない。恐らく燎にとっても。
「早いものですね。そうこうしている間に、きっとすぐに年末かと思うと」
「気が重くなるというか、先が思いやられるというか」
「おっしゃる通りです」
 大和は当たり障りない会話を選びながら、温かいほうじ茶の湯呑みを並べ、小皿にのせた鯛焼きとおしぼりを添える。すると、燎は一瞬目を大きく開き、居住まいを正した。
「大和。違ったら申し訳ないんだが、この鯛焼きは……」
「ええ、夏に食べたあのお店のです。持ち帰りもできるんですよ」
「そうだったのか」
「はい。時間は経っているのでどうしても風味は落ちてしまいますが。それにしても、よく気付きましたね」
「何かと思い出深い味だったからな。それに、尾ひれの形が特徴的だと思ったんだ。こういうのに詳しくはないんだが、何となく記憶に残っていた」
 確かに、この店の鯛焼きは他店に比べ尻尾が大きくて長く、角度もかなり上向きだ。聞いた話によると、金魚のようだと言われることもあるらしい。金魚も、金運や魔除けを連想させる縁起のいい魚だから、それはそれで宣伝になると店主は笑っていた。
 以前、燎とあの店でこの鯛焼きを宇治金時と共に食べてからもう三ヶ月くらい経っただろうか。そう考えると、改めて時間の経過の早さを実感してしまう。SwingCATSに入部してからは特にそうだ。学校に行けば勉強と部活。帰宅してからも勉強。休日も練習。それ以外の余暇も、ほとんどがトレーニングと家のことで埋まってしまう。本当に息を抜いている時間はいつなのだろう。もしかしたら、こんな風に茶事でない用事で誰かに茶を振る舞っている時がそうなのかもしれない。その用事というのが勉強であっても。
「もしかしたら、僕らは二人ともワーカーホリックの素質があるかもしれませんね」
「確かに、その可能性はありそうだな」
 燎は湯呑みを手に笑いをこぼした。否定しないどころか全く気分を害した様子がないあたり、既にワーカーホリックになってしまっているのではないか。とつい指摘しようとして、大和はほうじ茶に口をつけた。さすがに、病み上がりのワーカーホリックに仕事を持ちかけておいてその言い草はあんまりというものだろう。大和は湯呑みを置くと、座卓の下からクリアファイルを出し、燎に向けて置いた。今回も、十二月の期末テストの範囲の情報はある程度集まっている。
「じゃあ、お互い無理のないようにゆっくり食べながら相談といきましょうか。堂嶌先生」
「ああ、腹が減っては何とやら……だからな」
 燎は鯛焼きを一口かじると味の感想を二言三言述べた。大和も二口ほど味わってからおしぼりで丁寧に手を拭き、ファイルからルーズリーフを抜き取って並べた。