(47)皇帝VS女王 お題:5月6日は影山新の誕生日

流れるように捏造していくスタイル。あらゆる願望を詰め込みました。



「で、今回は何を企んでるの?」
 輝之進はソファに浅く腰掛け、ローテーブルからティーカップを取った。たっぷり注がれた紅茶をこぼさないよう、そっと持ち上げる。ふんわりと漂う香りの華やかさに満たされながら、輝之進は深く息を吸い込みゆっくりと肩を上下させた。カップとソーサーには濃いピンクのバラ。お茶のお供はラングドシャ。完璧だった。ただ上質なものを頂くだけではなく「もてなされている実感」が幸せの鍵なのだ。ロランはきっとそれを理解している。だからこうして輝之進の好みに合わせたものを振る舞ってくれている。とてもいい気分だった。今日の本題さえなければ。
「ひどい言い方だな。僕は楽しいことを計画してるだけなのに」
「それを企んでるって言うのよ」
 輝之進は短く言い切りティーカップを傾けた。ただ「美味しい茶葉が手に入ったからどうだい」という理由でこの3LDKに呼ばれていたなら、この味と香りを思う存分に楽しめていただろう。三人掛けのソファにゆったりと背中を預け、他愛ないお喋りだって出来たかもしれない。
 あいさつ程度に口をつけた紅茶をローテーブルに戻す。せめてこれが冷める前に片付けてしまいたい。そうすれば笑顔で水に流せそうな気がする。
「じゃあ今回はそういうことにしておこう。話が進まないからね」
「ええ、今回『も』ね。じゃあ早速教えてちょうだい。せっかくの紅茶が冷めてしまうわ」
「そうだね、手短に済ませよう。僕も早くお茶にしたいからね」
 ロランは涼しい顔で輝之進の皮肉を右から左へ受け流し、胸ポケットに指先を差し入れ何かを取り出した。

「じゃあ輝、これを見てくれるかな」
 促されるまま手を差し出すと、馴染みのある硬い感触があった。
「百円玉ね。種も仕掛けもありませーん、とでも言っておいた方がいいかしら」
「そこまでする必要はないと思うけどね。まあ、輝がしたいならそうすればいい」
 輝之進のわざとらしい言い方にロランは笑った。そんな趣味ないわよと答え、輝之進は百円玉をつまんで返す。
「ユーロじゃなくていいの?」
「そこは大した問題じゃないからね」
「そう。なら、なおさらユーロの方がいいんじゃない? 少しくらい手元にあるでしょう? 新は喜ぶと思うわよ? そういうの」
「確かにそうかもしれない」
 ロランはちらりと横を見てから再びこちらに目を合わせた。恐らく輝之進と同じことを想像していたのだろう。新が猫背をさらに丸め、一枚のユーロ硬貨をダイヤモンドでも見るかのように覗き込んでいるところを。
「ユーロは検討しておこう。輝の言う通り硬貨は持ってるからね。今回は練習だからこのまま百円玉でやらせてもらうけど、いいかな」
 輝之進が頷くと、ロランは右手の親指と人差し指で百円玉を挟んで見せた。OKサインの指の形だ。
「じゃあ、よく見てて」
 この後どうなるか何となく予想はつくものの、輝之進は黙ってロランに従い百円玉を目で追った。少し癪なところはなきにしもあらずだが、新の誕生日パーティーのリハーサルとあらば協力せざるをえない。ロランは百円玉を何度か左右の手に往復させた。途中で別の――例えば偽の硬貨など――にすり替わる様子もない。
 と、その時。
「え?」
 声を上げた時には遅かった。ロランの指に挟まっているのは五百円玉。先ほどまでの百円玉は影も形もない。
「どうかな」
「どういうこと、ちょっと見せて」
 口より先に思わず手が出そうになる。ロランは躊躇なくそれを輝之進に差し出した。裏返しながら隅々までチェックするも、そこにあるのはただの五百円玉とロランの余裕溢れる笑みだけだ。
「やられたわ……百円が消えるマジックだと思ったのに」
「先入観は持ってしまうよね。シンプルでオーソドックスだけど、よくできたコインマジックだと思うよ」
 いつの間にかロランは百円玉も手にしていた。どこから出したのか、いや、どこに隠したのか。輝之進は脚を組んでため息をつき、再びカップを手に取った。熱々ではないけれど、温かくてちょうどいい温度だった。切り上げるなら今がチャンスだ。完全に騙されたわ、もう練習の必要なんてないじゃない、新はきっと卒倒しちゃうわよ、とでも言えばいい。そうすれば後は楽しいティータイム。けれど、どうにも落ち着かない。輝之進はカップを置いて座り直し、口を開いた。
「ロラン、もう一回見せてもらえるかしら」