ロラン1年生の夏。創設直後の星屑に思うこと。ロラン父と部下たちが少し。鳴海家やロランの過去を捏造。
「みんなお疲れ様。職場の一室で申し訳ないけど、今夜は仕事を忘れて楽しんでいって欲しい。もうすぐ始まるだろうから、長い挨拶は控えさせてもらうよ。それじゃあ、乾杯」
ロランの父は、ずらりと並んだ大きな窓ガラスを背にワイングラスを掲げた。その瞬間、遠くの方でドンッと鈍い音が上がり、父の背後の夜景に花火がパッと咲いた。金色の大輪がパラパラと音を立てながら散っていく。
「社長、すごいタイミングですね」
「時間計ってらしたんですか?」
部下たちが続けざまに歓声を上げる。
「さすがにそんな細かい芸当はできないよ」
にこやかに応じる父の表情からは社長の肩書きがほとんど消え去っていて、ロランたち家族に見せる穏やかな笑みと混ざりあっていた。持ち上がったスパークリングワインにLEDの白い照明が降り注いで、細かな泡がきらきらと光る。ロランは父のそんな笑顔を久しぶりに見たように思う。
ロランがドイツに住んでいた頃から、父はヨーロッパとこの横浜を拠点にあちこちを飛び回りながら仕事をしていた。母と自分が住むドイツの家は、家というより休憩所のようなもの。家族仲は決して悪くはなかったが、それは父が自分と深く関わることがなかったからかもしれない。寂しくないと言えば嘘になる。けれど、いい意味で上辺だけの付き合いだから波風は立たない。しかも幸いなことに、父はロランが事業の後継者として必要なものをきちんと身に付け、将来を見据えたライフプランを立てさえすれば、後は割と好きにさせてくれた。
やっぱり僕の父はどこまで行っても上司なのかもしれない。ロランはアイスティーのグラスに口を付け、父から少し離れた場所から一人窓の外を眺める。
「せっかく横浜に来たんだから、花火を見にきたらどうだ。息抜きも必要だろう。毎年会議室を開放してるんだ。社員と家族なら誰でも来ていいことにしてる。打ち上げ地点からは遠いけど、混雑とは無縁だし、涼しくていい」
親の事業。社長の一人息子。用意された進路。期待。打算に満ちた人付き合い。そういうものから逃れたくて横浜に来たのに、ロランはどうしてか父の誘いを断れなかった。やりたいことはあの数万発の花火のように尽きない。星屑旅団はやっと創部にこぎつけたばかり。今欲しいものは息抜きではない。もっと今を充実させるための何かだ。
自分が作ろうとしているものは、花火に似ている。
誰もが思わず振り返る強烈な響き。見とれるほどの美しい光。はじける音の粒。それらは一瞬で消えてしまう。次々に音を鳴らし鮮やかな光を放っても、決して長くは生きていられない。けれど、必ず人の心に残り、生き続ける。思い出という形で。あるいは歴史という記録で。
そして命の限り続けていれば、やがて原風景になれるかもしれない。夏が来れば花火を連想するように。星屑旅団も、いつか。
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