(61)真夏の激辛カレー一本勝負 お題:汗を拭う

ミケVSキティのガチバトル。優貴の味覚がこんな感じでもいいなと思って書いてみた。




 いってえ……!!
 口から出そうになった言葉を氷水で流し込む。半分ほど残っていた水を一気に飲み干しても、吐いた息は燃えているようだった。噴き出した汗が止まらない。拭くのも面倒になってきたが、放っておくと目にしみて痛い。首から下げたタオルの端でゴシゴシと顔を拭く。今度は首の後ろが蒸し暑くなってきた。たまらずタオルをはぎとる。べったり貼りついていたTシャツの背中を掴んで剥がし、バサバサと風を送る。
「……見てるこっちが暑苦しい」
「んだと」
 冷たい罵りに睨み返す。いつもなら一発お見舞いしたくなるところだが、今は店のカウンター席。唸るだけで勘弁してやる。
 チラッと目に入った優貴の皿はゴールが近い。対する自分は残り半分を過ぎたところ。この激辛カレーは、運ばれてきたタイミングも量も全く同じ。光牙が知る限り、優貴は昔から飲むのも食べるのも悠長だ。がっついているのを見たことがない。なのにこの差は何なのか。考えようとしただけで、胃がむかむかして体中が熱くなりそうだ。黙って食らうしかない。

 ゴトン。
 光牙の前にあったピッチャーが下げられ、新しいものが置かれる。ほとんどなくなりそうだったから助かった。新しいピッチャーには四角い氷がぎっしり。水もほぼ満タン。
 よし。
 空のグラスにおかわりを注ぎ、スプーンをカレーに突っ込む。
「そのくらいないと足りないだろうからな、初心者には」
「……あ?」
 てっきり店員がピッチャーを取り換えたとばかり思っていた。優貴のしわざだったらしい。言い方までとことん腹の立つ野郎だ。なぜ素直にどうぞと言えないのか。それができないなら黙って置くだけでいいのに。
 体の中で唐辛子が爆発しそうになる。俺は黙って食う、と頷く。カレーがたっぷり絡んだ白飯を大きくすくい取り、口に放り込む。ルバートのカレーより黄色くてサラッとしているのに、辛さが尋常じゃない。スプーンが舌に当たった途端にビリビリッと痛みが走る。しかし、うまいのも確か。舌が痛くてよくわからないが、辛さ以外の色々な味が何となく感じ取れる。ゴロッとした肉も食べ応えがある。また食べに来てもいいな。こいつがいない時なら。

 カタン。
 優貴はゆっくりと水を飲みきり、空のグラスをテーブルに戻した。そして、どこからかハンカチを取り出し顔と首にあてる。けれど、きっちりとボタンの閉まった長袖シャツには汗のシミ一つ浮かんでいない。
「ごちそうさまでした」
 俺の勝ち、と言い残し優貴は伝票を抜き取る。シュルッと紙が引き抜かれる音もお高くとまっている気がしてつくづく頭にくる。
「今のは引き分けだろうが! ごちそーさんでした!」
 伝票とタオルを引っ掴み、大股で後を追う。ジーンズのポケットから財布を抜いて開く。
 二度と賭けに乗るかよ。いや違う。次は絶対に勝つ、だ。