(70)早く気づけばよかった お題:くしゃみ

噂をすれば何とやら。そんなゆあじゃず後のSC。2年生中心オールメンバー。
※海外事情はざっくり調べなので現実とは違うかもしれません










「そういえば、ドイツではシャーペンの芯って買えるんでしょうか」
 大和は燎の手元を見て何気なく口を開いた。その場にいた部員全員が一斉に顔を上げ、不思議そうな視線を向ける。
「ありふれたものだろう。どこででも買えるんじゃないのか?」
 燎は替芯の蓋を閉め、シャープペンシルのノックをカチカチと空押ししながら答える。光牙と優貴も続けて口を開いた。
「ド田舎じゃあるまいし」
「首都だしな」
「へえ、よく知ってるな」
「たりめえだろ!」
 二人は早くも火花を散らし始めてしまった。怯えた青が手をばたつかせ、言葉にならない声を上げる。そこで待ったをかけたのはレイだった。光牙と優貴の間に堂々と割って入り、体ごと無理やり仲裁する。
「二人とも、ケンカはダメ! カケルがベルリンに行く前、約束したでしょう?」
「……こんなのケンカのうちに入らない」
「翔琉から止められてんのは『大ゲンカ』だろ。これは『小ゲンカ』だ」
 優貴はそっぽを向いたが、光牙は正面から言い切った。聞き慣れない言葉にレイは首をかしげる。
「『小ゲンカ』……小さいケンカ、ですか? ワタシわかりました! リョウから習った、大は小を兼ねる! ですね?」
「そういう意味の言葉ではないんだが……ただ、小さな火種も思わぬ火事を招く。言いえて妙かもしれないな。実際、その『小ゲンカ』とやらのせいでまるで話が進まなくなったわけだし」
 芯の補充を終えた燎は、荷物を片付けると光牙と優貴を交互に見やる。これにはたまらず二人とも目を逸らしてしまった。

「大和。シャーペンがあるのに芯が売っていない、というのはおかしな話じゃないのか」
「いえ、前提が違うんですよ堂嶌くん。ドイツではシャーペンそのものが普及していないのでは、と思ったんです。星乃くん、アメリカに住んでいたときはどうでしたか?」
 そんな、と一同がどよめくなか、レイだけがそういえばと納得顔で答える。
「ワタシ、シャーペン使ったことありませんでした。mechanical pencil という言葉はあります。でも使ってるのはお母さんだけね。あとはみんな鉛筆かボールペンです。だから日本にきて初めて自分のmechanical pencil を買ったとき、とってもワクワクしました。消しゴムを使うのも楽しくて」
 懐かしそうに目を細めるレイ。けれどその口から語られる思い出話は、生まれも育ちも日本のSwingCATSの面々には全てが衝撃発言だった。
「星乃、消しゴムは……楽しいのか?」
 皆が一番突っ込みたい、でも突っ込んでいいのかためらってしまった点を暁が言葉にしてしまう。幸いレイは純粋な質問と受け取ったようで、ニコニコと子どものような笑顔を返した。
「ハイ、アメリカの消しゴム。全然消えないんです。黒くなっちゃうの」
「は……? おかしいだろ」
「消したいのに黒くしてどーすんだよ」
「理解が追い付かないな……」
 カルチャーショックとはこういうものなのか。信じられない現実にレイ以外の全員が言葉少なになり顔を曇らせる。
「外国では、不正防止のために学生もボールペンで勉強する国がある……という話を思い出したんです。本で少しかじった程度でしたが、まさか本当だとは。智川くん、大丈夫でしょうか……」

「――ッ、くしゅ!」
 ガツッ!
「あ、シャー芯折れた……もう入ってなかったか~、予備予備ーっと……」