(71)持つべきものは お題:依吹青

ベルリンで頑張る奏斗に突然届いた国際郵便。青くんの選んだ品物はあまりにも予想外。でも奏斗にとっては……?
※前週のくしゃみの続編ですが単品でも読めます。海外事情は相変わらずふんわりです。




「ありがてえ……!」
 腹の底から絞り出すような感謝のうめき。こんな声を出したのはいつぶりだろう。だいぶ前に十連一発でピックアップSSRを引いた時か、結構前狩り中に火力が足りず詰みそうになっていたら野良廃人がふらっと助けに来てくれた時か。いや、クリスマスから年末年始のガチャラッシュで爆死破産を決めてしまい身も心も財布も死んでいた時に「ベルリンに行くなら必要でしょう」と親が臨時ボーナスをくれた時だ。
 割と最近だった。

 この寮が個室で良かったと心底思う。じゃないと、国際郵便の伝票がベタベタ貼られた段ボールの前で土下座している姿を人目にさらす羽目になっていたのだから。
「マジかー……」
 信じられない気持ちで手にある箱をしげしげと眺めまわす。赤っぽい箱にはホカホカの白い湯気と『レンジであったか! 繰り返し使えるエコカイロ!』の文字。箱が傷まないよう、セロハンテープをそっと開けて中身を取り出すと、手の平サイズの白い袋が二つ出てきた。分厚いビニールのような素材で、中にオレンジ色のジェルが入っているのが透けて見える。
 つい、じっと見てしまう。
 使ってみたい。
 喉から手が出るほど欲しかったのだ。ベルリンの冬は寒いとは聞いていたので、防寒対策は一通り準備してきたつもりだった。もちろん使い捨てカイロも。ただ、単純に枚数が足りなかった。
 何と十月から冬が始まったのだ。しかも日本の冬とは寒さのレベルが違う。ドアをちょっと開けただけで命の危機を感じる。カイロの無駄遣いを我慢して一枚ずつ大事に使ってきたが、あっという間に底をつきて今ではこのざまだ。
 けれど、それも外だけの話。あまりにも外が寒いせいか、ドイツの建物はどこも暖房がしっかりしている。大きな暖房システムを使って全ての部屋をまとめて暖めているそうだ。おかげで室内にいれば寒さを全く感じることがない。ここに来てから不便を感じることは山ほどあるけれど、この暖かさだけは最高だと思う。日本も全部こうならいいのに。

 だからカイロを温めるのは出かける日の朝でいい。
 でも。
 カイロをポケットに突っ込み、部屋を出て廊下を早歩きで進む。日本とドイツではレンジのワット数も違うので、歩きながら脳内で計算だ。
 夕食を終えてあとは消灯を待つのみ。ほとんど人はいない。食堂の隅でそそくさと、しかしあくまで何気なくを装い電子レンジを開ける。さっき計算した時間を指定してスタート。慣れはしたけれど、細かいところがいちいち面倒で不便だ。鳴海さんは日本に来た時どうしていたんだろう。まあ、サラッとどうにかしたんだろう。鳴海さんだし。
 それにしても、このカイロの見た目といい触った感じといい、レトルトカレーに似ている。だいぶ小さいけれど、大きいサイズならまさにカレーな気がする。 ん? そういやこっちに来てからレトルトカレーって見たことない……かもしれない。
 やべえ、カレー食いてえ! 段ボールに入ってねえかな。まだ何か入ってたっぽいし、依吹のことだからあれこれぶち込んでる気がする。何たってシャー芯を送ってくるくらいだ。しかも三個も。嬉しいけどそんなには使わない。めちゃくちゃ助かるけど。ただでさえ0.4mm以外認めない人生を送っているのだ。日本でもたまに困る時があるのに、こっちはそもそもシャー芯自体が売っていない。知らなかった。

 国際郵便で智川さんにやたらとでかい箱が届いた時、正直若干引いた。
 でも智川さんがつい最近誕生日だったのと、差出人の名前がSwingCATSメンバー一同だったのを見て納得した。SwingCATSはそういうところがあるし、智川さんはそういうのが送られてくるタイプの人だ。そしてシャー芯が入ってるのを見つけて人前でめちゃくちゃ喜ぶ人でもある。

 だから、自分宛の荷物が届いているとは思わなかった。しかも差出人は依吹個人。ご丁寧に手紙つきで。封筒が異様に分厚かったからびっしり書きまくったのだろう。簡単に想像がつく。
『氷室くん
 こんにちは……っていうのも変かな。でも、久しぶりっていうのも違う気がして。手紙って難しいね』
 とか何とか書いてあって、本題まで時間がかかるパターンだ。まだ読んでいないからカンだけど。
 とりあえず手紙は後で読むとして。依吹の考えや行動は自分とかなりズレがある。いつもはそれどうなんだよとツッコミを入れてしまうが、今回は素直に感謝だ。

 カイロは小さいサイズなのですぐに温まった。商品についてきたカバーをかけてパーカーのポケットに入れる。すでに温かい。それにあのカサカサした感じもない。下手したら使い捨てよりいいのでは? と温かさに浸る。
 自分がレンジの前でぼーっと突っ立っているのも忘れて。