競技はちょっと苦手だけどそれなりに満喫しているワビサビ。
※やたらテンションの高いモブ放送部員がいたり、モブおばあちゃんをワビサビが助けたりします。
――赤組速い! どんどん差をつけていきます! このままゴールとなるのでしょうか! 一方白組も負けてはいません! 残りあと半周! 十分に巻き返しのチャンスはありますがどうなるか! 皆さまご声援をお願いします!
放送部員の熱い実況がグラウンド中に響き渡る。テレビのスポーツ中継に迫る技術と気合いだった。マイクを通しているのだからそこまでの声量はいらないだろうに。
いや、これくらい声を張らないと届かないのだろう。BGMはここ数年のヒットソングを上位から順にさらったようなプレイリスト。それに負けじと、あるいは乗せられ、会場の歓声と拍手は耳が痛くなるほどだった。燎は顔をしかめながら救護テントに向かう。生徒席から遠く離れたこの場所ですらこれほどの状況だ。向こうで競技に応援にと全力の現場は、相当な熱気と喧騒に違いない。
体調を崩した人には一層堪えるだろう。燎は隣を歩く年配の女性の様子を伺う。杖をついていることもあり心配したが、意識も足取りもしっかりしている。もう少しですよ、と声をかけ救護テントの様子をさっと目で探る。
「大和!」
努めて大声を上げないと業務連絡すらままならない。幸い、大和は救護テントの中でも通路側の方に立っていたのですぐにこちらに気付いた。
「堂嶌くん、そちらの方は……」
「ああ、気分が優れないそうだ」
燎が手短に伝えると、大和の表情はにわかに硬くなる。
「わかりました。すぐに先生を呼びます。どうぞこちらへ。歩けそうですか?」
女性は頷き、手近な椅子にゆっくりと腰掛ける。大和はそれを見届けると急いで養護教諭を呼びに行った。
燎はグラウンドに目を向けた。疾走する選手の蹴り上げた砂が飛び散り、白い砂埃がもうもうと立ち上っている。強い陽射しと合わさりもはや目を開けているのがやっとだった。
十月に入ったというのに、晴天の日は昼になれば夏のような暑さだ。真夏に比べれば湿気がないぶんかなり過ごしやすい。それでもわざわざ進んで直射日光を浴びようとは思えない。自分には美化委員の仕事が性に合っている。腕章をつけて会場を巡回し、ゴミ拾いに落とし物の管理。尋ねられれば道案内。今年は例年以上の気温のため、熱中症対策として体調を崩した人を近くの教員や救護係へ繋ぐ役割も担う。クラス全員参加の競技には出るが、あとは会場を見回りながら遠目に見守るのみ。部活対抗リレーも出場枠は各部四名なので、翔琉・光牙・暁・レイに任せている。実力的には大和も適任ではと思ったが、保健委員の仕事がありますからとやんわり辞退していた。恐らく自分と同じ動機なのだろう。
「先ほどはありがとうございました。症状は軽いそうなのでテントで休んで頂いてます。もっとも、この騒ぎでは座っていても休めるかどうか……」
「ああ、同感だな。盛り上がるのは結構だが」
――さあこの徒競走もいよいよ後半戦に入りました! シンプルではありますが、シンプルゆえの魅力がある、それが徒競走と言っていいでしょう! 選手の純粋な実力が全て! つまり速いヤツが強い! 強いヤツが速い! 何てシンプルなんでしょうまさにシンプルイズベスト! おーっと、そうこうしている間に白組の選手が激しい追い上げを見せている! これは並ぶか! どうでしょうか……並んだー!! 白組がついに赤組を捉えました!! これは熱い展開!
放送部員がまくしたてる。選手の足の回転より実況の勢いの方が速いのではなかろうか。白い煙に包まれて視界の悪いグラウンドより、同じ並びの放送部テントの方がよほど状況を明確に伝えている。
「……だめだ。笑ってしまう」
燎はたまらず顔を背けて笑いをこらえる。
「堂嶌くん?」
「すまない。素人もここまで振り切ってしまうと、何というか……」
「確かに、エンターテイメント性がすごいですよね。選手より目立っていないといいんですが……」
「どうだろうな」
燎は荒れた呼吸を撫でつけながら考える。案外みんな熱中しているから気にならないのかもしれない。
「しかし大和、この調子で部活対抗リレーを実況されるとなると」
「それは……! ああ……ある意味見ものかもしれませんね。これ以上手当が必要な方が増えないよう祈りましょう」
大和は燎の言葉に目を見開いていたが、少しすると納得したようにうなずき、額に当てた手を日よけにしながら目を細めた。
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