(75)早くコーラを飲みたい お題:失敗

ゲーマー奏斗。作中のゲームは架空のものですが、何となくよくある感じの狩りゲーです。





 クソ、ハズレ引いた。
 そう悟った途端、急に喉が渇き始めた。けれどコントローラから手を離すわけにはいかない。猛攻を続けるボスモンスターを正面に捉えたまま、視界の端で赤いペットボトルを盗み見る。フタを開けてから(開けたのは戦闘開始前のロード中)結構な時間が経っている。早く飲みたい、早く飲まないと。何でこんな時に限ってコーラにしたんだよ俺は。舌打ちすると乾いた上あごがザラついて痛かった。加湿器を入れるのも忘れた気がする。だがさすがに振り向けない。諦めて無理やり戦闘に集中する。

 轟音と共に巨大な骸骨形のボスが剣を振り下ろす。大技だ。地面に長い亀裂が走り、一拍おいて爆発。砕けた岩盤が石つぶてになり周囲に飛び散る。
 パーティメンバーのHPは増えたり減ったりを繰り返しており、後方で一人のヒーラーが何とか持たせている状況だ。自分を除く前衛の戦士二人は、少し前から薬を飲む動作が見られなくなっていた。回復薬が尽きているのだろう。そのくせに盾を使ったガードも回避もまともにできておらず、ボスの剣に振り払われてはいいように吹き飛ばされている。

 まだ覚醒も終わってねえのに何やってんだ。これのどこが効率部屋だよ!
 たまにいるのだ。自分が下手だと自覚している募集主が、わざと「効率部屋」と書くことで上級者をかき集める部屋が。多分この部屋がそうなのだ。奏斗は募集主を睨みつける。さっき同じ攻撃を食らったにもかかわらず、また正面から突進しては同じスキルを連発している。
 ボスの体力が半分を切ると、赤いオーラを身にまとい攻撃が激しくなる。通称覚醒状態だ。このままでは覚醒まで持っていけるかすら怪しい。ヒーラーが上手い人なのがせめてもの救いだった。それでも一度崩れたら終わる。
 こういうときボイスチャットがあれば通話で指示出しできるのに、なぜここは通話禁止部屋なのか。いや、それは自分のせいだ。今日は部活でがっつり練習したから喉を休めたくて通話なしの部屋を選んだ。

 正直、助けるのも面倒になってきた。けれど回線落ち以外で途中抜けするのはありえないし、ここまできたらやれるところまでという気持ちにもなる。
 ボスの隙を見て一瞬手の力を抜き、コントローラを軽く握り直す。それからボスの背後へ回り込み、足元を狙って短い連続攻撃を叩き込んでは離脱。今までは足の破壊報酬狙いで右足だけを集中攻撃していたが、そうも言っていられない。選り好みせず左足も容赦なく斬りつける。
 最初よりも足への攻撃が増えたことでボスの注意がこちらへ向かう。奏斗の動かすアサシンを蹴散らそうと、ボスはしきりに足踏みをしてはぐるぐると体の向きを変え始めた。踏まれるたびに細かいダメージは入るが、回復薬にはまだ余裕がある。どうにか覚醒まで押し切れるはずだ。
 覚醒に入ればボスの攻撃力は上がるが、全体的に大振りになり隙も増える。長いタメ技は暇なくらいだ。コーラも飲める。