ちびっこにめちゃくちゃ慕われる光牙さん。
※悪ガキ度強めのモブ小学生コンビが好き放題騒ぎます。仲良しですがとにかく生意気なので大丈夫な人向け。
「あっ、光牙!」
「ほんとだ! 光牙ー!」
高い声に振り向くと、なじみの顔があった。同じ施設の男子小学生コンビがこちらに向かって大きく手を振っていた。ランドセルの横に下がった体操服袋もブランブランと揺れている。
二人が着ているフリースジャケットはだんだん小さくなってきている気がする。もう袖から手首が丸見えだ。
「呼び捨てすんなっつったろ」
「わかってるって!」
「いーじゃんそんくらい!」
「よくねえよ! 世話んなってる人にはちゃんとしろ!」
「世話になってねーし!」
「なってねーし」
口だけはいっちょまえだ。二人は光牙の注意をろくに聞きもしない。これは久しぶりにガチの鬼ごっこか、と光牙は歩道をぐっと踏みしめる。しかし、一歩踏み出す前に二人はゲラゲラ笑いながら走り出してしまった。すぐ先の公園に一直線だ。小さな背中はさらに小さくなり、白い息もすぐに消えてしまう。
「ったく……」
特大の白い息を吐き、頭をガシガシと掻く。光牙が公園に足を踏み入れた時には、二人は既に敷地奥のベンチにたどり着くところだった。
幼稚園児のころは「こうがお兄ちゃん」と呼んでべったりだったのが、今ではすっかりこんな調子だ。片方の子の背中はランドセルのふたが閉まっておらず、留め具がカチャカチャ鳴りまくっている。なのにお構いなしだ。
「おい! ランドセルあいてっぞ!」
光牙が大声を上げると、二人はぎょっとして体をひねり自分の背中を見ようとする。あんなに派手な音がしていたのに二人とも気づいていなかったとは。
「やべ!」
「うわだっせー!」
「は? おめーもダサくしてやる!」
小さな手がサッと伸びて、相手のランドセルの留め具をパチンと外した。途端にやかましさが倍になる。当然自分のランドセルを後ろ手で留められるはずもない。パッカンパッカン! カッチャンカッチャン! と言いだした背中に絶叫と笑いが飛ぶ。
「バッカじゃねーの!?」
「バカはおめーだよバーカ!」
これには光牙も我慢できず大笑いしてしまった。
「っははは! おめーらほんとにバカだな!」
「はあ!? バカじゃないって!」
「そーだそーだ! バカは光牙だー!」
「俺は関係ねーだろ」
「知りませーん!」
「一番のバカは光牙でーす!」
「んだと……!?」
ちょっと面白いことをしだしたと思ったらすぐこれだ。
「やべ、光牙キレる!」
「逃げろー!」
口も回れば足も回る。そしてこんな時だけは頭の回転も爆速になる。怒られる瞬間を悟るセンサーは超一流だ。二人は近くのベンチにランドセルを放り投げジャングルジムへ一目散に走り出す。そして子猿のようにひょいひょいと登り、あっという間に頂上へたどり着くと腰を下ろしてくつろぎ始めた。
光牙は今日二つ目の特大ため息を吐いた。この二人にいちいち付き合っていたら自分のトレーニングの時間がなくなってしまう。小学生に付き合ってやるのも悪くはないが、別の意味で疲れそうだ。やるならせめてちゃんとしたスポーツがいい。
光牙はベンチに向かい、ひっくり返ったランドセルたちの横に自分のリュックを置いた。
「お前らしばらくそこで遊ぶのか?」
「うん」
「そだよ」
「じゃあついでに俺の荷物見といてくれ。ちょっと走ってくっから」
「いいけど、強盗に教科書取られても知らねーからな」
「んなもん入ってねえから大丈夫だ。その代わり、ドラムスティックに手えつけるヤツがいたらソッコーで呼べ」
「は? 命より大事なやつじゃん!」
「自分で持っとけよ!」
「スティック持って走るやつがどこにいんだよ。やべーだろ」
「やべー!」
「強盗っぽい」
「誰が強盗だ! ……俺はな、スティックを任せるくらいお前らを信用して言ってんだ。それだけはわかっとけよ」
「わかってるって!」
「まかせろ!」
「大丈夫かよ……」
「信用してるって言ったじゃん」
「光牙うそつきー」
「ったく……お前ら! 二人まとめて先生んとこ連れてくぞ!」
「絶対やだ!」
「光牙の鬼! 悪魔! バカバカバーカ!」
「だからバカはおめーだっつったろ! それと光牙『さん』だ!」
光牙はぐるぐる巻きにしていたマフラーをほどいてリュックの上に放る。首筋に冷たい風が吹きつけるが、気にならないくらい体は温まっていた。軽くストレッチをして体をほぐす。
「光牙さん! オレ強盗見つけたらぶっ飛ばす!」
「あとケーサツにレンコーする!」
ジャングルジムのてっぺんで二人は得意そうに笑う。
「危ねーからやめろ! 覚悟は上等だけどな、そういうのは覚悟だけでいいんだよ。お前らは大声出す! んで逃げる! 得意だろ。大体な、強盗ってのは俺でもやべーんだぞ」
「……マジかよ」
「……やべーじゃん」
二人は急に真剣な顔つきになり声をひそめた。
「ほんっと、わかってんのか? こいつら……」
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